クレ・シェーンの射手座怪談3011

桃雪とう

宇宙船の怪

私はね、休日にはよくケンタウリの砂浜で暇をつぶしてるんですが、そこに知り合いのKという思念周波がいて、ある時仲間の物理人達と一緒に怪談話でもしようということになったんですね。

そのKという思念周波もみんなから促されて話をすることになったんですが、そのまま映像で見せると障りがあるといけないと言って、サンフィルターの薄暗い空気のもと、現話機からポツリポツリと話し始めたんです。今回はそのKの友人が体験したという、お話です。


統一時間で丁度五十年程前の話ですが、その頃オリオン腕にBという運送会社がありまして、まあその頃は超C航行も今ほど発達していなかったものですから、船を使ってのんびり旅をしてたんです。

DさんとMさんは武器輸送船の乗組員でした。


武器といっても骨董品の類いで、安全管理も行き届いてましたから、まあ特に問題はないだろうということで、AIに運転を任せて各々ゲームやらやってたんです。


で、ある時Mさんが急に食堂器の方を見上げて「あれ、何?」と言うんですよ。

「食堂器がどうかしたの?」と聞くと、いや違うんだよ、と。


Mさんが言うには、食堂器の上で何か映像が現れたり消えたりしているって言うんですね。

AIに聞いても立体映像の類は出してないと言う。


Mさんは昔から霊感が強い人だったんですね。

Dさんは、疲れてるんじゃないの、ってその時は言ったんですが、Mさんとは昔馴染みだったので、もしかしたらと思ってたんですね。


Mさんはナノマシンを埋め込んでなかったので、まあ船のちょっとした設備でチェックして貰おうみたいなことをAIから提案されて、食堂器の横を通って船の奥に行こうとしたんです。


で、その時Mさんが急に「分かった」って言ったんですね。


「遠くからだとよく見えなかったけど、これ、人だ」


そう言った後、その場をキョロキョロ見回してたんですね。

で、やがて荷物庫のドアの方向に目を向けて、その方向に歩き出したんです。


これは何かヤバいなと思ったDさんは、Mさんを引き止めたんですね。

するとMさんは急に我に帰ったんです。


「なんでこっちに行こうと思ったんだろう。逃げなきゃいけないのに……」


Mさんはそれきりもう何も言わずに、診察室にも行かなかったそうです。


その時はそれ以上何も起こらなかったんですが、Mさんはその後数ヶ月後に急に亡くなったんですね。


バックアップもなく、Dさんは、付け加えておくとセベ星人で、まあセベ人の感覚で色々感じるところがあった訳ですが、その更に数ヶ月後にAIから連絡があったんです。


「この前、Μさんと宇宙船に乗ったよな。あの時、どうもMさんの様子がおかしかっただろ」

「ああ」

「馬鹿馬鹿しいと思ったからその時は言わなかったんだが、あの時船内をちょっと調べたら妙な骨董品を見つけたんだよ。γ線銃なんだがな……」

「それが、どうしたんだ?」

「それがな、公開制限がかかってないから言っちまうが、関数世代時代より前に作られた古い銃でな……公開データベースにも記録されてないし、それが売買されたオークションの出品記録も詳しいことは書いてなかったんだが、あの時、銃口が食堂器の上の方を向いている武器がひとつだけあって、それがその銃だったんだ」

「その銃がどうかしたのか?」

「その銃を買ったって人、風の噂ではどうやら死んだらしいんだよ」

「偶然だろ」

「考えても見ろよ。小型とはいえ船環の直径は五十二メートル、武器庫はあの部屋の丁度対岸にあった。適当に置かれた銃口がピンポイントで食堂器を向く確率なんてあり得ないほど低いんだよ」


後から分かったことですが、その銃は凶悪殺人犯が好んで使った銃で、最後には殺人犯もその銃で自殺して、その後色々な人の手に渡ったそうですが、インターネット上では随分前に即売会と無関係な掲示板で売却の話が進んでいたそうです。

しかし一向に出品がされず、その時はガセネタと考えられていたんですが、どうも所有者が死んだらしい。

そこで遺族の方が遺品整理に売り出したのが、今回の銃というわけだったんです。


Dさんはその時は笑ってごまかしていたそうですが、彼もまたその数ヶ月後に亡くなったそうです。


これ、不思議な話ですよね。

呪われていたのが銃だったとして、Mさんが「人だ」と言っていたのはなんだったんでしょうね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

クレ・シェーンの射手座怪談3011 桃雪とう @MarianaOak

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ