吸血鬼(ヴァンパイア)の夏

平中なごん

 一

「一週間もの間、抗生剤の効かない菌ってあると思うかい?」


 私は、熱で朦朧とした頭の中で、もう一人の自分にそう問いかけた。


 そもそもの発端は、お盆も終わりという八月十六日の朝のことだ。


 その日は、朝から首筋や肩が痛く、なんとなく頭が重かった。


 だが、肩が凝ることや頭が重いことはよくある。別段、騒ぐようなことでもない。


 私は始め、変な格好で固まりでもしてて、首を寝違えたのだろうと思っていた。


 しかし―。


 午前中に、毎年恒例となっている少し早めの送り盆のため、若干、離れた場所にある我が家のお墓へお参りに行っての帰途。


 私は、背骨に沿って身体の内側の熱が奪われていくような、突然の寒気に襲われた。


 その後、その寒気は時を追うに従って益々酷くなっていく。


 さらには寒気と共に、頭を締め付けられるような頭痛もし始める。


 そして、午後には――。


 夏だというのに、セーターを着て、布団に包まって寝ていないといられないほどの状態に陥った。


 夏だというのに、そうでもしないと居れないのだ。


 この症状。


 これは、他の何ものでもなく、明らかに熱が出ていることを示す症状だ。


 だが。


 咳も出ないし、喉の痛みもない。


 あるのはただ。尋常ならざる寒気と我慢の範疇を超えた頭痛だけである。


 これは夏風邪なのか?


 否。どうにも夏風邪とか、そうした類のものとは少し違うようだ。


 盂蘭盆会の終わりのこともあるし、餓鬼にでも憑かれたか。


 当初、そんな風にも思った。


 明くる日。


 この日は交代要員がおらず、どうしても仕事に行かねばならなかったので、熱に気だるい身体を引きずって、文字通り這ってでも仕事に行く。


 世間ではオリンピックに沸いている時節であるが、


 どこぞの国の五輪選手の如く、薬物投与(ドーピング)によって、なんとかその日は乗り切ることができた。


 しかし、そのさらに翌日より―。


 私はぶっ倒れ、二週間近くも寝込むこととなったのである。


 症状は相変わらず、高熱と頭痛だけだ。


「では、一体、何の細菌ですか?」


 私は、先生に問うた。


 すると、先生は。


「うーん。細菌というより、バイ菌?」


 と言った。


 バイ菌――なんだか嫌な言い方だ。


 しかし、一体どこでそんなものに感染したのだろうか?


 倒れる前の数日間、仕事で人の大勢いる所にはいたが、別に咳などしてる者も見受けられなかったし、何より、かかり方が急過ぎる。


 感染経路が全くわからない。


 ともかくも。


 感染症や扁桃炎治療の通例に則り、私は抗生剤を服用して療養することとなった。


 だが、数日、薬を服用し続けても、まるで症状が快方に向かう気配はない。


 熱は下がらず、鎮痛剤が切れると、また酷い頭痛に襲われる。


 そこで再び医者に行き、より強い薬と、今度は直接血管に点滴で抗生剤を注入する。


 これで、もうしばらく寝ていれば、きっとよくなるであろうと、その時は思っていた。

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