教えてっ、女になっちゃったけどどうすればいい? 2
「どうすればいいと思う?」
呆然としている夏に、ちょっと首を傾げてあざといぐらいの可愛さを演出してみる。
男の俺ならまだしも、今の俺は銀髪碧眼の超絶美少女だ。それこそ同性すらも見惚れるほどの。
思惑通り夏は顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに俺に尋ねる。
「え、えーっと……その、遥くんはいますか?」
ププーッ! 遥くんだって! そんな呼ばれたの初めてだわ。
よし、もうちょっと攻めてみようか。
夏の質問を無視して、夏に軽く寄りかかって胸を押しつけるようにして上目遣いで、と。
「ねぇ、どうすればいいと思う?」
ほんのり頰を赤く染めながらのこの完璧なポージング! これで堕ちないやつなどいない!
え、なんでこんなこと知ってるのかって?
そりゃお前、もしTSした時ように考えてたんだよ。ちなみにこれは『オトコを堕とすっ、可憐な乙女のポーズ No.24』だな。ちなみにポージングの種類は三桁を超えてるぞ。
同性の夏も俺の『可乙 No.24』にやられたのか、ぽーっとした目で見つめてくる。
くくくっ、ここはあともう一押しだな。
体勢はそのままに、軽く服をぎゅっと握って、上目遣い&涙目のコンボで攻めるっ!
これぞ『可乙 No.24』の派生技、『助けてっ、華奢な妹のポーズ No.19』!! 自社推定値百パーセントを超えるほどの庇護欲を掻き立てる必殺のポージング!
さぁ、夏よ。俺の頭をポンポンと撫でるなり慰めるがいい! そうすれば──
「だっ、大丈夫! 変なやつとかいたら私がぶっ飛ばしてやるから! こう見えてもあたし、すごく強いんだぞ?」
キター! これで『可乙 No.24』の最終派生技が使える!
俺は不安そうな表情から一転、夏から一歩離れながら手を後ろに組み、まるで花が満開に咲いたような輝く笑顔を浮かべる。
これでトドメだっ!
「ありがとうっ、お姉ちゃん!!」
『可乙 No.24』最終派生技、その名も『大好きっ、純粋な少女のポーズ No.75』!
この『可乙 No.24』→『華妹 No.19』→『純少 No.75』の一連の流れは『ハジメマシテで堕とす乙女の感謝』という、まぁ一種のハメ技のようなものだ。
なんてったって、最初の『可乙 No.24』を回避できなかった時点で、最終派生技まで持っていかれるのが確定するからな。
実戦で使ってみたのは初めてだが、なかなか効果抜群のようだな。
完全に見惚れてしまっている夏の顔を見ればわかる。
くくくっ、そろそろネタバラシしてやるかな。
輝くような笑顔をそのままに、俺は夏に話しかける。
「なぁ、夏」
「っ!? どっ、どうしたの?」
ぶはははっ! こいつ声かけられただけで動揺しすぎだろ。
「なんで
「……え?」
俺の一人称に驚いたのか、呆然と俺を見つめる夏に再度問いかけてみる。
「なんで俺が朝イチからお前をここに呼んだかわかっただろ?」
「へ? ちょっ、ちょっと待って!」
夏はしばらく沈黙して考えたのちに、恐る恐る俺に尋ねる。
「もしかして……ハル?」
「くははははっ! 正解っ! 俺が一ノ瀬遥だ」
俺の答えに相当驚いたのだろう、夏は目を点にして口を半開きにしたまま停止している。
「いやぁー、ほんと夏は面白いやつだなぁー。電話をかけたときも声が違うことに気づかないし、今だって完全に見惚れてたよな? まぁそれは俺が可愛すぎるのが問題かなぁっ!」
「っ!? バカッ!」
俺の煽りに顔を真っ赤にして怒って踵を返そうとする。さすがにそれはまずい。
今ここで夏に逃げられたら明日の学校が大変悲惨なことになってしまう。
「ご、ごめんって! いやだって朝起きたら急に銀髪美少女にジョブチェンジだぜ? テンパって夏を籠絡しようとするのも仕方ないことだろ!?」
「──っ! もう知らないっ!」
夏は俺の発言にさらに怒ったのか、家の方へと走り去ってしまった。
────────
「で?」
あのあとなんとか夏をなだめすかした俺は、自室に夏を引きずり込んで事情を説明した。
その説明を聞き終えた後の夏の発言がこれである。
表情は感情が抜け落ちたような無表情で、声は絶対零度の冷たさがこもっている。
やっぱりからかいすぎたのが悪かったのだろうか。
「ハルはなんの為にあたしを呼んだの? まさかとは思うけど、からかうだけのつもりだってんなら──」
拳の骨をバキバキ鳴らしながら背筋の凍るような笑みを向けてくる。
「──わかってるわよね?」
怖い。もしここで俺のTSポージングを使ったりでもしたら即座に俺の美少女フェイスが破壊されそうだ。
なのでここは正直に全て説明する。
「いやー、俺って急に女になったわけじゃん? だからさ、服とか下着とかってなーんにも持ってないのね。妹のやつだとキツキツで息苦しそうだから夏と一緒に買い物に行こうかなーって思って」
はぁ、とため息をつく夏。今の俺の答えのいったいどこがおかしかったの言うのか。
「ねぇ、一つだけ聞いてもいい?」
「ん。どうした?」
「──なんでっ! あんたは取り乱してないのっ!?」
……取り乱す? なんで?
「取り乱すって……なんで?」
「なんで!? 朝起きたら急に女の体になってたのよ!? なんでそんなに落ち着いていられるのよ!」
「いやだって、ずっとTSしてみたいなーって思ってたし」
「はぁっ!?」
そんなに驚くようなことか? TSなんて男子が一度は体験してみたいことじゃないか。
俺は一生女で生きて行く覚悟はできているけどな。
「はぁ……じゃあもういいよそれで。それで、下着だっけ?」
諦めたような顔で話す夏。
むぅ、納得がいかぬ。
「なにぼーっとしてんのよ。さっさと買いに行くわよ」
「え? あ、ちょっと待って」
俺は未だにパジャマのままだったので着替える為に箪笥をひらいて──
「……着れる服がないな」
その場で崩れ落ちた。
いや別にTS自体は悪くない。むしろ良い。けど痴女になるのは違う!
このままではヤヴァイ……はっ!
「夏! ちょっと下着と服貸して」
殴られた。解せぬ。
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