第154話 再会

「…………」


 アデマス軍が包囲を完了する前、限たちは密かに王城へと侵入した。

 そして、すぐさま無人の一室に入ると、限は無言のまま城の内部の探知を開始する。


「どうやら、オリアーナは地下、親父は玉座の間って所だな……」


 探知による反応から、限は知り得た情報を述べる。


「……しかし、妙だな……」


「何がでしょう?」


 探知を終えた限は、渋い表情で呟く。

 何か違和感を覚えているようなその物言いに、レラは疑問の言葉を投げかける。


「兵の動きがおかしい。城の外に向かっているようだ」


 城の外は、もうアデマス軍の兵によって包囲完了寸前。

 残っている敷島の兵が選択できることは、籠城して最後まで戦い抜くか、降伏の白旗を上げるくらいだろう。

 しかし、敷島の人間が戦わず、奴隷にされることが分かっているこの状況で白旗を上げるはずがない。

 負けると分かっていても、戦って死ぬことを選ぶはずだ。

 そして、彼らが少しでも多くのアデマス兵を死出への道連れにするとなると、闇に紛れての夜襲だろう。

 なのに、こんな昼間から外に向かって行き、何をするつもりなのだろうか。

 その意図が分からないため、限は首を傾げた。


「……どういうことでしょう?」


「さあな……」


 この城にいるのは、斎藤家と近藤家の人間のみのはず。

 多くても50人くらいだろう。

 いくら敷島の人間が一騎当千の実力と言われ、オリアーナが作った強化薬使用したとしても、城を包囲しているアデマス軍の大群を殲滅できるようなことはまずできないだろう。

 それなのに、もう動き出すのなら、何か策があるのかもしれない。

 その策が何なのか分からないため、限はレラの問いに首を振って返答した。


「……だが、これは都合が良い。俺たちは予定通り動くぞ」


「はい!」


 限たちの標的である父の重蔵やオリアーナを始末するために動くとなると、他の兵と遭遇する可能性が考えられる。

 例え遭遇したとしても自分たちの脅威になることはないだろうが、時間を弄することになる。

 しかし、この状況なら、兵との無駄な戦闘をすることなく標的の所に向かえるということだ。

 なので、限は予定通り動くことを告げ、レラもその考えに従うことにした。


「では、私は地下へ……」


「あぁ」


 レラの標的はオリアーナ。

 その彼女は、限の先程の探知では地下にいるということだ。

 そのため、レラはここで限と別れ、地下へ向かうことを告げる。


「気を付けろよ。地下の生物反応はオリアーナを含めて2、3人。数が少ないとは言っても、奴は薬を使うからな」


「はい!」


 オリアーナは研究者だ。

 敷島の人間と違い、戦闘能力はほぼないと言って良い。

 しかし、オリアーナはこれまでの研究から作り出した、生命体を変質させて強力な生物兵器に変える薬物を使用する。

 今のレラの実力なら問題ないだろうが、仕留めるまでは油断できないため、限は念のためレラへ警告した。

 それに対し、レラは心配してもらえたことが嬉しいのか、満面の笑みで返答する。


「アルバとニールも気を付けろよ」


「ワウッ!」「キュウ!」


 従魔である白狼のアルバと亀のニールには、レラと共に行動するように指示してある。

 敷島兵のいない今の状況で、オリアーナを相手にするのならレラ1人でも問題ないだろうが、予定通りに付いて行ってもらうつもりだ。

 過剰戦力と分かっているが、限は念のため注意を促し、2匹もそれに返事をした。


「じゃあな!」


「はい!」「ワウッ!」「キュッ!」


 ここからは別行動だ。

 限は、レラたちに一言告げ、動き出す。

 その背に向かって返事をし、レラたちは限とは別方向へと動き出した。






◆◆◆◆◆


“ギギィ……!!”


「来たか……」


 巨大な扉が、物々しい音を立てて開く。

 それを待っていたように、上座にある豪奢な椅子に座った男が呟く。

 その側には、男が1人立っている。


「…………」


 呟いた男に向かい、限は無言のままゆっくりと歩を進める。

 そして、椅子に座った男から少し離れた所で足を止めた。


「……久しぶりだな?」


「何年ぶりだろうな?」


 椅子に座った男、側に立つ男の順で限に話しかける。


「……俺に殺されるために待ち受けているなんて、良い心がけだな? 親父、兄貴……」


 問いかけに答えることはせず、限は椅子に座る父の重蔵とその側に立つ天祐に話しかける。


「ずいぶん舐めた態度だな……」


 自分たちの問いかけに答えるどころか、完全に上から目線の限の物言いに、重蔵は冷静な声で呟く。

 声は冷静ではありながらも、こめかみに青筋を立てている所を見ると怒りを抑えているといったところだろう。


「まさか本気で俺たちを殺すつもりか?」


 父の重蔵程ではないが、天祐も怒りからか不機嫌そうな表情をしている。

 そして、限が先程発した言葉の真意を確認するように問いかけた。


「当然!」


 腹違いの兄である天祐の問いかけに対し、限は返答する。

 しかも、考える素振りすら見せない言い方だ。


「……無能のくせに生意気な」


 舐めた態度で返答する減に対し、返答を受けた天祐よりも先に重蔵の方が我慢の限界が来たようだ。

 限を罵るような言葉と共に、眉間に皺を寄せて椅子から立ち上がった。


「はぁ~……、あんたもか……」


「……何っ?」


 重蔵の言葉に対し、限はため息を吐き、呟く。

 その意味が分からず、重蔵は答えを求めるように反応する。


「どいつもこいつも俺を昔の印象である無能呼ばわり。敷島の人間なら昔の事よりも今の情報を重視すべきだ。あんたたちも子供の頃に習っただろ?」


 敷島の情報収集能力は高かったはず。

 それなのに、昔の自分の印象が拭えないのだろう。

 これまで戦ってきた者たちは、皆一様に無能呼ばわりしてきた。

 情報の重要性を理解しているはずだというのにだ。

 父である重蔵も彼らと同じ様な考えをしていることに、限は呆れたように話しかける。


「無能呼ばわりしていた奴らは皆殺しにして来た。次はあんただ」


 例え情報を信用したとしても、自分がやることは変わらない。

 地獄の人体実験をする研究所と分かった上で送った張本人である重蔵を始末するため、限は腰に差した刀の柄に手を添えた。


「ふんっ! 話しはこれまでだ。運良く力を手に入れただけのガキが!」


 自分と戦う気でいる限の態度に、これ以上話すこともなくなった重蔵も殺気を放ち始めた。


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