第4章

第114話 謀反

「どういうことだ? 敷島よ」


「……申し訳ありません。国王陛下……」


 玉座に座るアデマス王国国王のジョゼフ・アデマスは、こめかみに青筋を浮かべつつ目の前の敷島頭領の良照に問いかけ、

問われた良照は片膝をついて頭を下げる。

 菱山家の失敗を取り戻すために、帝国へと向かった五十嵐家。

 その五十嵐家も、帝国に打撃を与えるどころか誰一人として戻て来なかった。

 失敗に次ぐ失敗に、腹を立てるのも当然と言って良い。


「謝罪などではなく説明をしろ! 菱山家に続いて五十嵐家も滅ぼされたという話ではないか!?」


 ラクト帝国への侵略を指示したというのに、敷島の菱山家は返り討ちに遭い、全滅するという失態を犯した。

 生物兵器によって苦戦したのだと思っていたが、菱山家も五十嵐家も帝国側の強者によって滅ぼされたという話しだ。


「1人の兵が一騎当千の実力を有するのが、敷島ではなかったのか?」


 ただでさえ指示した侵略が進んでいないというのに、多くの敷島兵がこの世から去ったことに、ジョゼフ王からすれば信用を失いつつあった。

 これまで、自分が望んだとおりの結果を出してきた敷島。

 それがこうも失敗続きの結果なのだから、それも仕方がないことだ。


「我々が予想している以上の実力者が、帝国内に潜んでいるのだと思われます」


 以前帝国内を捜索したが、菱山家と五十嵐家を返り討ちにしたほどの実力者は見つけられなかったはず。

 いや、五十嵐家の行動から考えるに、当主の光蔵は発見していたのかもしれない。


「何者かは分かっているのか?」


「……現在捜索中でございます」


 あれほどの準備をしていた五十嵐家ならばと、光蔵に任せてしまっていたため、良照はその者のことを聞くことが無かった。

 それが今となっては悔やまれる。

 ジョゼフ王の問いに対し、頼輝は再度申し訳なさそうに頭を下げるしかなかった。


“バンッ!!”


「な、なんだっ!?」


「ムッ!?」


「「「「「っっっ!?」」」」」


 ジョゼフと良照、数名の近衛兵しかいない玉座の間。

 その扉が、突然何の確認もなく、大きな音を立てて開かれた。

 その音に反応し、ジョゼフは慌て、良照と近衛兵たちは扉の方へを体を向けて身構えた。


「お話し中失礼……」


「斎藤!?」


 扉を開けたのは、限の父で斎藤家当主の重蔵だった、

 その姿を見た良照が驚いているのを気にすることなく、背後に息子の天祐を引き連れて玉座の間に入室してきた。

 言葉では謝りつつも不遜な態度をしていることに、ジョゼフだけでなく室内にいた者たちは眉をひそめた。


「貴様、ここへ何をしに来た?」


 明かに態度がおかしい。

 そんな重蔵の態度を異様に思った良照は、更に腰を落としていつでも刀を抜ける構えをとった。


「何をって?」


 入室してきた重蔵は、良照の問いを受けると足を止めて笑みを浮かべる。

 そして、少し間を空けて返答する。


「この国をいただきに来た!」


「「「「「っっっ!?」」」」」」


 重蔵の言葉を聞いて、王であるジョゼフを始めとした室内の者たちは驚きで声を失う。


「貴様! 何を狂ったことを……」


 他の者たちとは違い、良照は怒りと共に刀を抜く。

 そして、すぐさま光蔵へと斬りかかっていた。


「っと!」


「光蔵! 貴様は自分が何を言っているのか分かっているのか!?」


「フッ! もちろんだ!」


 接近と共に襲い掛かる良照の攻撃を、重蔵は抜いた刀で受け取める。

 そのまま鍔迫り合いの状態になり、良照は目の前の重蔵へ怒鳴りつける。

 年はとっても敷島頭領。

 その良照が放つ殺気を前にしても、重蔵は鼻で笑って平然と答えを返した。


「こんなことをして、敷島の名を受けられると思っているのか!?」


「頭領! それは的外れな質問だ!」


「なにっ!?」


 菱山家と五十嵐家が消えた今、良照の後に敷島の名を継ぐ有力候補は斎藤家の重蔵しかいない。

 それなのに、こんなことをするような者に敷島の名を与えるわけがない

 自らその地位を放棄する意図が、良照には理解できない。

 鍔迫り合いの状態からお互い距離を取ると、良照は重蔵からの返答を待った。


「敷島の名前なんて必要ねえよ! それよりも、俺は王の座に就く!」


「っっっ!! な、何をバカなことを……」


 敷島の名ではなく、王の座を手に入れる。

 それはつまり、この国を相手にするということだ。

 敷島の人間の実力が一騎当千だといっても、そんな事ができるわけがない。

 もしもそんなことができるとしたら、先代たちがおこなっていたはずだ。

 そうしないのは、いくら敷島の者でも数には勝てないからだ。

 隣国への侵略を繰り返して発展続ける王国は、昔以上に兵の人口が増えている。

 重蔵の言う国を乗っ取るなんて、完全に夢物語だ。


「そんな世迷言、させるわけがないだろう! おい! 城内の兵を集めろ! この謀反人を討ち取るのだ!」


「無駄ですよ。陛下」


「何……!!」


 王の座を狙うということは、自分の命を狙うということ。

 光蔵に堂々と言われ、ジョゼフも黙っていられない。

 自分を守るように立つ近衛兵たちの1人に、城内の兵を集めるように指示を出す。

 その兵が動き出すより早く、これまで黙っていた天祐が待ったをかけた。


「もうこの部屋以外に、生きている兵はいませんよ」


「…………は? き、貴様は何を……」


「乗っ取りは、もうほぼ完了しているということですよ」


 理由を述べたというのに、ジョゼフは理解出来ていない様子だ。

 そんなジョセフに対し、天祐は子供を相手にするに説く。


「……っ!! ヒ、ヒィー!!」


 重蔵と天祐が開けた扉。

 そちらをよく見ると、部屋の外には赤い液体がまき散らされているのが見えた。

 そして、人の物であったであろう手足などが転がっている。

 鎧を着ている所を見ると、王国兵だと理解できる。

 理解したからこそ、ジョゼフは天祐の言ったことが本当だと分かり、恐怖で甲高い悲鳴を上げた。


「俺は頭領を殺る。お前はあっちを殺れ」


「そっちを手伝わなくていいんですか?」


「フンッ! こんな死に損ないなんて、俺一人で充分だ」


 良照と睨み合いを続けながら、重蔵は天祐へと指示を出す。

 相手は、老いているとはいえ敷島の名を持つ現役だ。

 自分も援護した方が良いのではと考え、天祐は父へと問いかける。

 それに対して重蔵は、心配無用と言いたげに鼻で笑った。


「貴様!! 舐めるな!!」


 斎藤親子のふざけた会話に怒り心頭の良照は、全身に高密度の魔力を纏うことで身体強化し、重蔵へと向かって床を蹴ったのだった。


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