第113話 次へ向けて

「フフッ……」


 幼馴染の奏太と奈美子を殺した限は、嬉しそうに微笑む。

 復讐の標的を排除できたことで、無意識に浮かべた笑みだ。


「お疲れ様でした!」


 刀についた血を払って鞘に納めた限は、離れた位置で見守っていたレラたちのもとへと向かった。

 すると、アルバの怪我を回復させていたレラは、限に気付くと手を止めて話しかける。


「途中か?」


「いいえ。今終了しました」


 自分を見て手を止めたのかと思って話しかけると、どうやら違ったらしい。

 ちょうどアルバの怪我の治療が終わった所だったようだ。


「アルバ。平気か?」


「アウ!」


「……どうやら大丈夫そうだな」


 別の場所で戦いながらも、アルバの様子は気になっていた。

 結構な深手を負っていたので、奏太たちを相手に楽しむようなことはせず、本気を出してさっさと倒してしまおかとも考えていた。

 しかし、レラが遠距離回復魔法を使用するのを見て、そのままやらせることにした。

 最終的に奏太だけではなく、奈美子まで自分の手で仕留めることができたのだから、自分の選択は間違いではなかった。

 うつ伏せの状態でいたアルバだが、レラの回復魔法によって痛みがなくなったのか、体を起こしてお座りの体勢になり、限の問いに返答する。

 そんなアルバを、限は体を撫でまわしつつ怪我の様子を確認するが、もう問題ないようだ。


「ニールも平気か?」


「キュッ!」


 ニールも大怪我を負っていた。

 回復後も問題なく戦闘に加わっていたことから、問題ないと思うが、限は念のため全身を見渡した。

 レラの魔法によって完治したらしく、元気そうだ。


「まさか、ニールの防御壁を破壊されるとはな……」


 ニールの魔力による防御壁は、限でも強めに力を込めないと破壊できないほどの強度だ。

 敷島の人間で破壊できるとすれば、五十嵐家当主の光蔵や、限の父である重蔵。

 それに、敷島頭領の良照くらいだと思っていた。

 その3人以外の人間に破壊されるなんて思いもしなかったため、ニールが怪我を負ったのがは予想外だった。


「あの、限様。お聞きしたいのですが……」


「何だ?」


 今回の戦闘で、レラも予想外のことが幾つもあった。

 限ならばその答えを分かっているはずだと、レラは少し遠慮しがちに尋ねて来た。


が飲んだ薬は何なのでしょうか?」


「あぁ、あれか……」


 レラは、奈美子を指差し問いかける。

 薬を飲んで変身したことにより、レラは自分の手で奈美子を仕留めることができなかった。

 そのことが悔しいのか、その薬のことが気になったようだ。


「恐らくだが、人間の肉体を限界値ギリギリまで強化する薬だと思う」


 限はあくまでも自分の予想を述べる。

 薬の作用については、本人に聞くしかないだろう。


「どうやら斎藤家……、俺の腹違いの兄貴から貰った薬らしい」


「限様の……」


 限は自分を無能と蔑み、最終的に研究所に捨てた敷島の人間への復讐を考えている。

 その中でも、特に斎藤家の人間のことを憎んでいることをレラは分かっている。

 そのため、まるで自分の標的でもあるかのように表情を歪めた。


「あれが大量に生産されるとしたら、俺たちにはかなり面倒な薬だな」


「そうですね……」


 美奈子であれだけの力を手に入れたのだから、かなりの人数が同等の力を手に入れるということだ。

 その者たちが、全員あの薬を使用して攻めかかってきたとしたら、限にとっても脅威になり得る。

 アルバの全力と同等レベルの力となると、ニールだと微妙、レラでは厳しいことになる。

 レラたちのことを気にしながら戦うのは、限にとっても危険な状況を生みかねない。

 かと言って、1人で全員を相手にするというのも厳しいものがある。

 敷島への復讐を考えている限としては、あの薬の存在は懸念材料と言って良い。


「しかし、殺す前に奈美子から良い情報が聞けた」


「……良い情報ですか?」


 限が奈美子と何かを話していたのは気付いていたが、アルバを治療していたのと離れていたので内容までは分からない。

 そのため、レラは限の言う良い情報というのを、首を傾げて問いかけた。


「先ほども言ったように、あの薬は斎藤家が関係している」


「はい……」


 奈美子が言うには、自分の兄の天祐てんすけから渡されたとのことだ。

 そのことを、再度確認するように限は話す。 

 それを受け、レラは頷き、続きを待つ。


「強さを求めるとは言え、斎藤家がそんな薬を作り出す研究をしているとは思えない。では誰が発明したのか……」


「……っ! まさか……」


 父の重蔵は、限が幼少の時から頭領の座を狙っていた。

 だからこそ、魔無しの限の存在が疎ましく思っていたのだろう。

 実力主義の敷島。

 だからといって、あのような薬を開発するというような考えは持っていなかったはず。

 ならば、そうやってあの薬を手に入れたのか。

 限の話を聞いたレラは、少し考えた後、あることに思い当たった。


「あの女……」


「あぁ、斎藤家がオリアーナと手を組んでいる」


 レラの呟きを聞いて、自分と同じ考えに思い至ったのだと判断した限は、その答えを発する。

 行方が分からなくなっていたオリアーナが、よりにもよって敷島の斎藤家の所にいるというものだ。


「まさかの居場所だが、むしろ良かったかもしれない」


「……といいますと?」


 斎藤家とオリアーナ。

 脅威が上がったというのに、何故か限は笑みを浮かべる。

 その笑みの意味が分からず、レラはその答えを求めた。


「斎藤家とオリアーナを潰せるんだ。一石二鳥だろ?」


「……フフッ! そうですね」


 限も警戒する斎藤家に加え、あのような薬。

 復讐する難易度が増したというのに、限はどこか楽しそうだ。

 難易度が増した復讐を達成した時の喜びを考え、無意識のうちに笑みを浮かべたのだ。

 そんな子供のような笑みを浮かべる限を見ていたら、レラも思わずおかしく思えて来た。

 敷島のことを憎んでいるとは言っても、その血は戦闘を楽しんでいるかのようだ。


「とは言っても、すぐにアデマス王国内に向かうのは無理だな……」


「……?」


 標的が集合しているということは、限にとって喜ばしいことだ。

 すぐにでも攻め込みたいところだが、限は冷静になってそれを延期するようなことを呟く。

 どうしてなのか分からず、レラは首を傾げた。


「お前らの戦闘強化をしないとな」


「……あぁ、そうですね……」


 今の段階で薬がどれだけ製造されているのか分からない。

 もしかしたら、今攻め込んだ方が有利なのかもしれないが、一か八かで攻め込むような相手ではない。

 薬を使用した敷島兵を相手にするには、アルバたちの実力に不安が残る。

 ならば、今はその不安を払拭するための行動をとるしかない。

 つまりは、レラと従魔たちの強化だ。

 限のその言葉を受けたレラは、自分たちがネックになっているのだと理解し、申し訳なさそうに頷いた。




 それから限たちは、五十嵐家の兵たちが使用していた刀を拾い、死体を焼却処分してからその場を後にしたのだった。


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