第64話 経路

「よくやったぞ! アルバ!」


「クゥ~ン!」


 従魔である白狼のアルバの鼻のお陰で、限は領主邸の地下に研究施設があることに気付くことができた。

 アルバが気付かなければ、もしかしたらこのままこの町を出て他の町の捜索に向かっていたかもしれない。

 そのため、発見してくれたアルバを褒め、ワシャワシャトと撫でてあげた。

 主人である限に褒められ、アルバも嬉しそうな声を上げた。


「まさか、領主邸の地下なんて……」


「道理で見つけられないはずですね……」


 気付いてみれば細かい違和感に気付く。

 この地域の領主が羽振りがいいにしても、ここの領主邸は町の規模してはでかい。

 というより、でか過ぎる。

 ここまでの大きさとなると、このラクト帝国の皇帝が住んでいるのではないかと思えるほどだ。

 それに、領主邸などは暗殺などを警戒して結界を張っていることがある。

 いくら限が探知に長けていると言っても、もしも結界に引っかかって領主邸を調べていると気付かれれば面倒なことになるため、町中の探知でも領主邸は除外していた。

 そんな理由もあって、地下のことに気付くことができなかったのだ。


「アルバの場合ニオイによる探知だから、地下でも気付いたのかもしれないな」


「なるほど」


 地下だとしても、人がいる以上ニオイを発するもの。

 結界なら侵入者や探知の魔法に反応したり排除したりできるかもしれないが、ニオイまでは結界内に抑えておくことはできない。

 ニオイによる探知をする魔物は、アルバのような白狼でなくてもいる。

 しかし、アルバのニオイ探知はそんな魔物たちの中でも群を抜いている。

 従魔使いのニオイ探知を警戒をしていたとしても、アルバのように広範囲の探知ができる魔物のことは警戒していなかったのだろう。


「でも、領主邸になんて……」


 復讐対象者たちの研究所が地下にあるのは分かったが、領主邸の地下というのは困った問題だ。

 下手に侵入しようものなら、結界が反応して大捕物へと発展してしまうかもしれない。

 その間に研究員たちに逃げられでもしたら、次の機会がいつ訪れるか分かったものではない。

 そう考えると、軽々に手出しをすることができない。


「どうやって侵入するか……」


「えっ?」


 限の侵入が決定しているような呟きに、レラは驚きの声を上げる。

 先程の理由から、レラの中ではどうやって穏便に領主邸に入るかを考えていた。

 しかし、限の中ではそんな悠長にするつもりが無いようだ。

 ようやく復讐対象者が見つかったのから、その気持ちも分からないでもない。

 それに、アデマス王国とこのラクト帝国の戦争がいつ始まるかも分からないため、この町の研究員の暗殺と研究施設の破壊は時間をかけたくないのかもしれない。


「気付かれずに侵入するのは難しいのでは?」


 この国の奥の手となる生物兵器を製造・研究している場所だ。

 結界だけでなく、警備のために領兵も配備しているかもしれない。

 そんななかを誰にも気づかれずというのは、限でも難しいような気がする。

 そのため、レラは注意の意味を込めた問いかけをした。


「当然真正面から乗り込むようなことはしないさ」


「では、どうやって?」


 レラの言うように、厳重に警戒しているであろう領主邸に忍び込むのは、敷島の誰であってもそうだし、自分でも難しい。

 しかし、それは正面から侵入した場合のことだ。

 正面から出なければどうやって侵入するのか分からず、レラはその方法を問いかけた。


「ギルドの職員は研究員の存在を知らなかっただろ?」


「……そう言えばそうですね」


 アルバのお陰で研究員が地下にいるということは分かったが、先程ギルドの受付の女性に聞いた時、研究員の者たちのことを知らないと言っていた。

 数人が研究資料を持って逃げ出したようだが、まだ相当な数の研究員がいるはずだ。

 それなのに、ギルドの人間が知らないなんてどう考えてもおかしい。


「恐らく、この町のどこかから人知れず入ることのできる場所があるはずだ。そこから侵入すれば、俺たちも町の人間にバレることなく侵入することはできるだろ」


「なるほど!」


 ギルドの人間が気付いていないということは、人の目に付かないように領主邸の地下研究所内に入ったということだ。

 ならば、その入り口を探し出せば、限たちも町の者に気付かれることなく領主邸に入ることができるということだ。


「その場所は分かりますか?」


「あぁ、探知で詳細に調べてみたら簡単に見つかった」


「流石です!」


 いつものように探知するだけでは気にならなかったが、その入り口を探すために町の建物内も隈なく調べてみたら気になる場所が見つかった。

 恐らくそこから研究員たちが出入りしているのだろう。

 普通ならそんな場所を探し出すことなんてなかなかできることではないのに、あっさりと探し出してしまった限を、いつものようにレラは褒め称えた。


「あそこの建物だ」


「たしかにあの建物は西門から近いですが、領主邸から遠くありませんか?」


 限がある建物を指し示す。

 その建物を見て、レラは本当にそこに領主邸の地下へと行けるのか疑問に思った。

 町の人間に知られないようにするというのなら、たしかに町の出入り口に近い方が良い。

 たしかにこの建物なら西門から近いし、数を分散したり日が暮れた時間帯に建物内に入れば、町の人間も気付かないはずだ。

 しかし、この建物は領主邸からかなり離れている。

 てっきり、領主邸の近くにあると思っていただけに、意外に感じたのかもしれない。


「たぶん転移系の魔道具でもあるんじゃないか? この距離なら届くだろうからな」


「転移系!? かなり高価なはずですが?」


 転移系の魔道具は存在しているが、限のように魔力次第でどこにだって行けるのとは違い、たいした距離も移動できないのに貴重で高価だ。

 研究員たちのことを知られないようにするためとはいえ、そんなものをわざわざ使うなんて、レラは信じられないでいた。


「ここの領主は金持ちなんだろ?」


「……そう言えばそうでしたね」


 内容が内容なだけに、研究員たちのことがバレるのは躊躇ったのだろう。

 ギルドの受付が言っていたように、ここの領主は金持ちのようなので、それだけのことができてもおかしくない。

 限の説明に、レラも納得した。


「このまま侵入してもいいが、夜の方が警戒も薄れるだろ。ひとまず宿屋を探そう」


「はい」


 侵入する経路は見つかった。

 いつでも侵入することはできるが、少しでも警戒心が薄れることを期待して、限たちは夜に事を起こすことに決めた。

 そのため、それまでは時間を潰すために宿屋に向かうことにしたのだった。


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