第52話 2人の暗殺者

「おいっ、尾けられてけられているぞ」


「……仕方ない。始末するぞ」


「あぁ」


 屋根から他の屋根へと身軽な移動により、逃走を図る忍び装束を着た暗殺者たち。

 冒険者ギルドから離れるように移動しているのだが、背後から迫ってくる気配を感じる。

 かなりの速度で移動しているというのに自分たちを尾けてこれる冒険者が、こんな田舎町にいるなんて意外に思いながら、2人は近くにある広場へと移動した。


「…………」


「「…………」」


 誰もいない広場で足を止めた2人の暗殺者に少し遅れ、1人の冒険者が追い付いた。

 街灯による少しの灯りによって、冒険者と暗殺者たちは無言で顔を見合わせる。


「……やっぱりな」


 追いついた冒険者はもちろん限。

 そして、暗殺者たちの出で立ちを見て、限は自分の考えが間違いでなかったことを確信した。


「「…………!!」」


 追いついた限を見た暗殺者たちは、無言で腰に差している刀を抜き、左右へと別れるようにして移動を開始した。

 いつまでも尾けられることを嫌い、問答無用で殺しにかかったようだ。


「フンッ!」


「「っ!?」」


 夜の闇を利用するように移動し、左右から刀による突きを限へと放った暗殺者たち。

 ほぼ同時に迫った攻撃を、限は刀とクナイを使って防御する。

 田舎町の冒険者が、初見で自分たちの攻撃を防ぐとは思わなかった。

 しかも、防御に使ったのが、自分たち一族が使うものと一緒の武器。

 暗殺者たちは2重の驚きにより、目を見開き固まった。


「ぐっ!」


「うっ!」


 一瞬の停滞を見逃さず、限は右、左の順に暗殺者の腹へと蹴り打ち込んだ。

 攻撃を食らった暗殺者の2人は、小さい声を漏らしつつ後方へと飛ばされた。


「おいおい、僅かな時間とは言っても、驚きで動きを止めるなって教わっただろ?」


「「っ!?」」


 限のその言葉に、暗殺者たちはまたも驚く。

 たしかに、子供の時に道場の師範からそう教わった。

 しかし、そのことを何故目の前の男が知っているのか分からず、理由を問いたげな視線を送った。


「その刀の家紋からして、中里家と木内家の人間だな?」


「「っっっ!?」」


 暗殺者たちの目は、これまでで最大に開かれる。

 限からすると、2人が先程から驚いているのが丸分かりなのだが、声に出さなかっただけ及第点といったところだろう。


「……貴様何者だ?」


 自分たちが使うのと同じような武器で、しかも家紋で自分たちがどの家の人間なのかを言い当てている所を考えると、自分たち敷島一族の人間だということになる。

 だが、敷島の人間でアデマス王国の外に出ているような人間はごく僅かしかいない。

 自分たちのように、アデマス王国から姿を消した研究所の人間たちの捜索・暗殺を指示された部隊と、山城家の人間を殺したとされる人間の捜索・暗殺を指示された部隊の2つだ。

 しかし、目の前の男はそのどちらの部隊にも所属していなかったはずだ。

 そうなると、今目の前にいる敷島の人間は誰だということになり、中里家の家紋の刀を持つ男は問いかけずにはいられなかった。


「その刀……。家紋は見当たらないが、山城家の物だろ? ……まさか英助を殺したのはお前か?」


 敷島の情報を得ていて、同じような武器を扱う。

 何者なのか考えていた2人は、限の持つ刀をジッと見つめた。

 敷島の人間の刀、もしくは鞘には、それぞれの家の家紋がどこかに入っているものだが、目の前の男のものにはどこにもそれがない。

 しかし、刀の波紋などから気付いたのか、木内家の男の方が問いかけてきた。


「正解。あの雑魚を殺したのは俺だ」


 限が持っているのは、木内の言ったように英助から奪った刀だ。

 別に山城家の人間でもないのに山城家の家紋を付けたままでいると気分がしっくりこないため、限は家紋の付いていた柄の部分を取り換えていた。

 刀を使っている時点で気付かれる可能性は高かったため、。


「なるほど……、任務外だが、このまま放置するわけにはいかないな」


「あぁ」


 本人が言っているだけで絶対的な証拠はないが、先程の動きを見る限り嘘ではないはず。

 自分たちの任務とは違うが、目の前に山城英助の殺害犯がいるのだ。

 このまま見てみぬふりをする訳にはいかないため、2人この男を倒して別部隊の者に差し出すことにした。


「任務って言うと、研究員の捜索と暗殺って所か?」


「……その通りだ」


 先程の呟きに反応し、限は木内へと問いかける。

 その問いに、どうしてそれを知っているのかと聞き返そうとしたが、木内はそうすることなく返答した。

 この男はどういう方法なのか分からないが敷島のことを良く知っているような態度や物言いだ。

 そのため、それも調べたことによるものなのだろうと、無駄を省くことにしたのだ。


「戦う前に先程の質問の答えを聞いておこう……」


「ん? 俺が何者かってことか?」


「あぁ」


 中里の言葉に、限は一瞬何のことか分からなかったが、すぐに中里に聞かれたことを思いだした。

 敷島を出た時から数年経っているし、今のこの姿は自分にとって本当の姿なのか怪しいところだ。

 自分でもそうなのだから、敷島の人間で自分が斎藤家の魔無し男だとは気付くわけもない。

 なので、キカナイト分からないのだろう。


「俺もあの研究員たちを殺したかったが、聞きたいことがあって生かしておいた。それなのに横取りしやがったお前らに教えるわけないだろ?」


「なるほど……」


 どうやらこの男も、あの研究員たちのことを始末するつもりでいたようだ。

 そうなると、横取りされたと思うのも仕方がないため、中里は限の言葉に納得した。


「まぁ、お前らが死ぬ前に教えてやるよ」


「……そいつを聞いて安心した」


 軽い笑みを浮かべながら、限は刀とクナイを中里と木内へと向けて構えを取る。

 自分たちを完全に下に見たような発言だが、2人はそれに怒りを見せるようなことはしない。

 何故なら、敷島出身の自分たちが、負けるわけがないと思っているからだ。


「先程の攻撃を防いで、浅いとはいえ腹に一撃を与えた技量については褒めてやろう」


「しかしながら、我々は敷島の中でも国外に出られるだけのエリートだ。お前などに負けるわけがない」


 中里が話し出し、木内がそれを引き継ぐように話す。

 先程の一撃で調子調子づかせてしまったが、今はもう冷静だ。

 例えこの男が敷島の者だとしても、自分たち相手に勝てるわけがない。

 そう考えた2人は、余裕の態度で刀を構えたのだった。


「感情が隠しきれない未熟もんが、舐めたこといってんじゃねえよ」


 獲物である研究員たちを横取りされた怒りが腹の中で渦巻いているが、限はそれをおくびにも出さないで2人と対峙する。

 そして、その鬱憤を晴らそうと、限は刀とクナイを構えて、戦闘態勢へと入ったのだった。


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