第53話 2人との戦闘

「「ハッ!!」」


 ようやく見つけた研究員を殺され、その2人組の暗殺者を追いかけてみれば、敷島の中里家と木内家の人間だった。

 その2人組に追いつき戦うことになった限が武器を構えると、中里と木内はすぐさま動いた。


「…………」


 腰に差していた敷島特有の武器である刀を抜き、中里が右に来れば木内が左にというように、限を中心として円を描くよう時計回りに走る2人。

 襲い掛かってくるタイミングを警戒しながら、限は2人の動きを目で追いかける。


「っ!?」


“キンッ!”


 目は2つあっても、左右を同時に見ることはできない。

 片方に視線が行けば、もう片方の姿は消える。

 何周かしたところで、この膠着状態が動くことになった。

 視線を中里向けた限へ、手のひらサイズの石が高速で飛んできた。

 中里が投擲したその石を、限は左手に持つクナイで防ぐ。


「シャア!!」


「フンッ!」


 石に目がいっていた限に対し、石を投げた中里が接近する。

 投げた石が防がれるのは承知の上。

 中里の狙いは、限のクナイを防御に充てさせるのが狙いだった。

 接近した中里は、そのまま刀を横薙ぎに振ってきた。

 その動きはたしかに速いが、限の右手には刀を持っている。

 その刀を使って、限は中里の攻撃を受け止めた。


『もらった!!』


 限の意識が中里に向いたのを確認し、木内は無言のまま背後から襲い掛かる。

 完全に死角からの攻撃のため、木内は内心では勝利を確信していた。


「甘いな……」


“ガンッ!!”


「なっ!?」


 無言で背後から突きを放ってくる木内に対し、限は顔を動かさないまま小さく呟く。

 限の心臓を一突きとなる寸前で、突如横から魔力の球が飛んでくる。

 ノーモーションで限が作った魔力球だ。

 それが木内の刀に当たり、刀の軌道が限から外れた。

 魔力の球が、いつ、どこで発射されたのか分からないのと、当たると確信していた攻撃が外れてしまったことに、木内は戸惑いの声を上げた。


「フンッ!!」


「うぐっ!!」


 攻撃が外れて完全に隙だらけになった木内。

 出来た隙を逃す訳もなく、限は前を向いたまま後ろに蹴りを突き出す。

 その蹴りを躱せず、木内は腹に食らって吹き飛んだ。


「このっ!!」


「っと!!」


 連携攻撃を防がれて戸惑ったのは中里も同じ。

 限の視線を誘導しての自分たちの連携攻撃を、あっさりと防がれると思っていなかったからだ。

 しかし、いつまでも固まっていられない。

 木内を後ろ蹴りしたのを見て、中里は限の蹴りに使用した軸足に蹴りを放ってきた。

 軸足を払うように蹴ることで限のことをすっ転ばせようと考えたのだろうが、限はジャンプをしてその蹴りを躱した。


「セイッ!」


「ガッ!!」


 ジャンプした限は、中里の顔面目掛けて両足で蹴りを放つ。

 限のドロップキックが直撃し、中里もその場から吹き飛ばされた。


「なかなかの反応速度だな」


 吹き飛んだ2人に向かって、限は感心したように呟く。

 というのも、限からするとそこまでの吹き飛ぶような感触ではなかったからだ。

 攻撃を受けると判断した瞬間、衝撃の流れに逆らわないように後方へと自ら跳び退いて、ダメージを軽減させたのだろう。

 その判断の切り替えの速さを限は感心したのだ。


「ハー!!」「ハッ!!」


「フッ!」


 限の言葉に反応を示さず、距離ができた中里と木内は魔法を放ってきた。

 前から火炎放射、後方から風の刃が限に迫るが、限は軽く息を吐くと共にその場から横へ跳ぶことで魔法攻撃を回避した。


「セイッ!!」「ハッ!!」


 前後から飛んできた魔法がぶつかったことで、風の刃によって火が無数に散らばり周囲へと飛び散った。

 花火のようでキレイに見えるが、そんな事を呑気に言っている状況じゃない。

 魔法攻撃を回避した限に、中里と木内は同時に襲い掛かった。


「…………」


 限への接近と共に、刀を鋭く振ってくる中里と木内。

 攻め込み続けるその攻撃を、限はクナイと刀を使って防御する。

 無言の攻防が続く。


「こいつ……」


「段々と……」


 少しの同じような攻防が続いていたが、それも段々と変化が起きる。

 攻撃を続ける中里と木内は、その変化に気付いた。

 襲い掛かる2人の攻撃を、クナイと刀で防いでいただけの限が、段々と攻撃を躱すようになってきたからだ。

 しかも、限は笑みを浮かべつつ攻撃に対処している。

 攻撃を食らえば一撃で死へと至るというのに 余裕があるかのような態度だ。


「フッ!」


「「っ!!」」


 中里が頭部へ、木内が胴へと薙いで来た同時攻撃を、限はこれまで以上の速度で動いて回避した。

 あまりの速度に、攻撃を躱された2人は一瞬限の姿を見失う。

 しかし、すぐに魔力を探知して限へと目を向ける。


「ハハッ! 敷島の人間相手に訓練できるのは楽しいな」


 離れた位置に立つ限は、楽しそうに笑う。

 ここまでの戦いを利用して、訓練していたかのような物言いだ。


「訓練……だと?」


「こいつ舐めているのか?」


 敷島内で相当な実力がないと島から出ることはできない。

 同年代の中で、自分たちは幼少期から上位に君臨したエリートだ。

 見下すようなことはあっても、逆の立場に立ったことがない。

 そのため、2人は怒りの表情を露わにした。


「すまんな。敷島の人間相手に自分の技術がどれほど通用するか試したかったんでな。お前らに合わせて戦ってみたが、どうやらもう慣れた」


 実は2人が先程感じていたように、限は余裕を持って戦っていた。

 身体強化の魔力量も2人に合わせて調整していた。

 さすがに相手に合わせた状況での1対2は、攻め込まれて防戦一方になってしまったが、それも慣れれば対処可能になった。

 研究所の地下で、醜い姿が治ってからの訓練は無駄ではなかったようだ。


「さて、そろそろ攻めるか……」


「フンッ! ちょっと防御が上手いからって……」


「餓鬼が調子に乗ってやがるな」


 限は刀を鞘に納め、クナイを魔法の指輪に収納した。

 たしかに防御の技術が高いことは認めるが、それだけで自分たちに勝てると思っていることが腹立たしかった。


「抜刀……瞬き!」


「「なっ!?」」


 抜刀の構えをしたと思ったら、自分たち敷島の人間が使う剣術の1つを放ってきた。

 斎藤家の人間を殺した程の者なのだから、ただ事ではないことは分っていた。 

 自分たちに一撃入れた体術と防御はかなりのものだ。

 しかし、まさか敷島の剣術を使うと思わず、2人は慌てたような声を上げた。


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