第十五話『Moppet's Detective』(前編・その0)

『ですから巴さん! 「密室状況」なんて王道じゃないですのよ!? どうしてそんな面白い話で私に一声かけてくださらなかったのかしらっ!?』


 いやぁ部長……後から急にそんなコトいわれましてもですね……。

 電話の向こう側からキンキンと鳴り響く、可愛らしくもけたたましいちさとさんの声をよそに、さーて、どう対応しようかしら? と、私は窓の外をぼんやり眺める。


 ぱらぱらと、白い雪がちらついていた、


「そこはその、青空の下でしたから、厳密には密室ではありませんし……」

『出入りが容易ではない不可能状況であることは間違いないじゃありませんの!!』


 容易じゃないにせよ、入るのはゆず子さんもやった通り不可能じゃないし、出る方法にしてもそれこそ「飛び降りる」という非常手段で不可能という訳でもなかったのですが……いや、それはさすがに屁理屈かも。


「えぇと……あの時は一刻一秒を争っていましたから。香織先輩からは、詳しいお話をうかがってませんでしたか?」

『お姉様にはすでにたっぷりじっくり根掘り葉掘り微に入り細を穿うがち伺いましたわよ!』

「あー」


 香織さんには、ひとまずご愁傷様でした、とお見舞いしたいところ。


 今は、冬休みの真っ最中。

 学校から遠く離れた我が家で、どこに行くでもなく自室でくつろいでゴロゴロしている最中に、こうして耳に飛び込んで来る部長の声も中々新鮮だった。


「確かに、無事解決するまではそれなりの『不可能状況』だったのも間違いないと思います。でも……事情もわかれば『なぁんだ』で済む話ですし──」

『解決済の不可能状況ですから、それは当然のコトでしょう!? まして、解決したのはあなたなんですから!』

「いやまぁ、それは確かにそうかもですけど……その。不可能……いえ、可能だから成立していたわけですが、例えば密室とかだって、そんな珍しいものじゃありませんし。おっしゃる通り王道ですから、わりとどこにでも──」

『充分珍しいわよ! だいたい、人の一生のうち密室状況に出くわすことなんてどれだけあるとお思いかしらっ!? そんなもの、ほとんどゼロでしょう?』

「いや、そうでも……」


 いいかけて、ハッと口を閉じた。

 確かに。部長のいうのは至極もっともな話。


 ──私くらい、なんて、そうそうあるわけないじゃない?


 思い返せば、「出くわした」わけじゃないにせよ、初めて探偵舎を訪れた時に聞かされた話にしてもそうだったし、それにあの時も──。


 舞い散る雪を眺めながら、私は二年前のことを思い出していた。

 まだ、あの子とあんな風になる前の。

 そして、かくも忌まわしき「殺人鬼」の事件から、一年以上が過ぎた頃のことを。

 ようは「」のひと時で、だからあの頃のことを思い出しても、私の中のは入らないでいた。


 入らないから、していた。







 第十五話『Moppet's Detective』

      (ちびっこ探偵団)

            (初稿:2005.01.15)







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