新旧最強プレイヤー1

 上位ランカーの人達がメアの城に来てから十数日、僕らは平穏な日を過ごしていた。

 メアの持つ魔法を見せてもらったり、僕が住んでいる所ではどんなものがあるのか話したり、僕がどれだけメアに会うのを願っていたのかを熱烈に説明したり(これについてはメアが途中で恥ずかしがって打ち切られてしまったので、想いの10分の1も伝えられなかった)した。

 毎日何時間も一緒にいるのに全く話題が尽きることなく楽しい日々だった。


 僕はメアの作ってくれたお昼ご飯を食べた後、少し城の中を散策していた。

 食器を片付けるとメアに話したが、家事は全て私に任せてトーシローはゆっくりしててと言われた。

 まるでダメな男に依存する彼女みたいな構図だ。


 これは良くない。

 非常に良くない。


 確かに現状、僕はメアに養ってもらっているヒモみたいな存在ではあるが、このままでは将来メアが不幸になってしまう未来しか見えない。

 なにより僕の立ち位置がダサすぎる。

 好きな子のヒモて。

 もっとこう……僕も男らしさといものを醸し出していくべきだと思うよね。

 例えばそう…………凶悪な敵こら守れるナイトみたいな。

 メアのピンチに颯爽と現れ、敵を瞬殺する。


 …………悪くない! けど僕よりメアの方が強い時点でそんな状況にはなり得ないんだよなぁ。

 RAVENさん達が来た時なんか全く逆の状況だったし。


 そういえば、あれからRAVENさん達は音沙汰が無いな。

 すぐにリベンジに来るものだと思っていたけど、さすがに来るまでに何時間もかかる場所だ、諦めたのかもしれない。

 あれだけの布陣を集めるのも大変なはずだし。


 そもそもこんな状況じゃなければ僕もRAVENさん達と一緒にメアの討伐に来ていたのかもしれないな。

 あんな風に恨まれることもなく、ゲーム脳だなんて言われることもなく、ソロプレイヤーとして生きてきた自分に初めてゲーム友達ができたかもしれない。

 そう思うと少し残念な気持ちになるけど、じゃあ今と比べるとどうだという話になれば断然今の方が幸せなのでRAVENさん達には謝罪しておく。なむなむ。



『きい…………』



 目の前の扉が不自然に開いた。


 ホラー現象だ! なんて驚くわけでもなく、立て付けが悪いところに風でも吹いたのだろう。

 そりゃあ何年もメアが一人で住んでいるところだ、管理の行き届かないところも出てくるよね。


「よし、僕がこっそりドアを直してメアをビックリさせてやろう」


 今から僕の趣味はDIYだ。

 中学の工作の成績は1だったけど。


 僕がドアに近付いた瞬間、ヒュッと風を切る音がした。


「トーシローだな?」


「がっ……!!」


 突き刺さるような痛みが僕のお腹を突き抜けた。

 いや、実際に剣が突き抜けているんだ。


「心臓を狙ったのに直前でかわされるとは、大したもんだ」


 姿は見えないが何かが目の前にいる。

 僕は正面に風切ウィンドスピアを放ち、その威力で自分も後ろに吹き飛ばした。

 お腹から剣が引き抜かれ、痛烈な痛みと熱さを伴いながら血がドクドクと流れ出る。

 すぐさま全負傷回復ダメージレストを使い傷を治した。


「対応も速い。現ランキング1位も伊達じゃないな」


 僕はこの戦い方をする人を知っていた。

 S級の中でも超レアな武具、姿を透明化させる能力を持つ全透鏡鎧インビジブルアーマー全透鏡剣インビジブルソードを使うプレイヤーは一人しか見たことがない。


「まさか…………『ノーネーム』さんですか?」


「御明察」


 透明化の能力を解除し姿を表したのは、マジトレ最盛期において常にランキング1位の座に君臨していた最強のプレイヤー、ノーネームさんだった。

 透明化を駆使した戦いを主体とし、その暗殺術を防ぐのは至難のことであり、何より透明化なんてものがなくともそもそもの戦闘力が最強だった。

 こんな状況じゃなければサインを要求するぐらい僕が尊敬している人だ。


「とんだ大物が現れたもんだよ……! マジトレにログインしてるなんて何年振りですか?」


「1年半ぶりだな。もうログインすることは無いと思っていたんだが……」


 サービス終了を受けて最後にメアへ挑戦しに来たってところか……。

 僕は素早くメニュー画面を開き、装備を入れ替えた。

 服装がオルトロンの鎧へと変化する。


「どうして今になって……?」


「いやなに、面白いことになっていると連絡を受けたものだからな。何とか都合をつけて参加したわけだ。感覚を思い出すのに少し時間はかかったが……」


 僕はゆっくりと腰に掛けている空間分離トランスファーに手を掛けた。

 メアのところへは行かせない。

 ノーネームさんには悪いけど、ここでお帰り願おう!


空間分離トランスファー!!」


 30m以内ならばどこへでも瞬間移動できる1度きりの初見殺し。

 僕はノーネームさんの背後へと移動し、首を刎ねるようにして剣を薙いだ。


「悪いが、その技はもう知ってる」


 しかし、僕の剣がノーネームさんに届くことはなく、寸前で全透鏡剣に防がれた。


「そんな!」


 そのまま一振りで僕は吹き飛ばされた。

 なんという威力。

 いや、そもそも空間分離トランスファーを知っているなんて有り得ない!

 この武器はメアの城以外では見たことがないし、1年半も離れていたノーネームさんが知っているわけがない。


「俺がその剣を知っていることがそんなに不思議か? 少し考えれば分かることだ。何故俺が出会い頭にプレイヤーであるはずの君を攻撃したと思う」


 メアの城にいる僕を攻撃…………っ!! そういうことか!!

 僕がメアを守っていることを知っている人、それに連絡を受けてノーネームさんはマジトレにやってきた。

 それはつまり……!


「RAVENさんか……!!」


「御明察」


「お久しぶりですねゲーム脳もとい、トーシローさん」


 開いた扉から入ってきたのはRAVENさんだった。

 いや、RAVENさんだけじゃない、それ以外に入ってきた人達の面子は……!!


「嘘だろ……!?」


「貴方とメアを討伐するのに最高の布陣で来ましたよ」


 RAVENさんの後ろに続いて入ってきたのは、マジトレ全盛期のランキング2位pikyyyさん、3位あやとり名人さん、4位WITさん、現ランキング3位まっつんさん、4位パプリカさん、5位ファルカナ☆みかんさんだった。


 新旧ランキング上位の面子が大集合していたのだ。

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