上位ランカー6

「ふん♪ふん♪ふふーん♪」


 夕飯の支度をしながら、自然と鼻歌を歌っていた。

 以前の自分からでは想像のできない行動に、思わず恥ずかしくなった。

 原因はもちろんトーシロー。

 彼が来てからの一週間は私が過ごしてきた数年間よりも濃密で、新しい経験ばかりだった。


「あ、そうだ。ご飯ができる前にお風呂に入っててもらおうかな」


 こんな風に誰かのことを考えることも増えた。

 ただ一日を過ごすだけの日々とは変わってきていた。


 私はエプロンを外して玉座の間へと移動した。

 その時、玉座の間の方から激しい衝突音のようなものが響いてきた。


(トーシロー何してるんだろ? 一人で特訓でもしてるのかな?)


 わずかな疑問を抱きながら、私は玉座の間を開けた。


「トーシロー? 夕飯の支度がいい感じになってきたから先にお風呂に──────」


 目の前の状況を見て私の思考は固まった。

 トーシロー以外の人が3人、部屋の中には激しく争ったような跡、そして血まみれで横たわるトーシロー。


「…………メ……ア」


 微かに聞こえた私を呼ぶ声。

 いつものような元気な面影はなく、消え入りそうな弱々しい声。

 私の中で初めての感情が湧き出してきた。


「──────トーシローに何をしてるのよ!!!!!!」


「このタイミングで大本命かよ……!」


「すぐに戦闘態勢に───」


千本柱センチュリオン!!」


「あっ……!!」


 魔法使いの格好をした女の人を即座に串刺しにし、そのまま消滅していった。


「ファルカナさん───」


大地を巡る隕石グランドメテオ!!」


 続けて小型の隕石をいくつも降り注がせる魔法を発動。

 空中に魔法陣がいくつも出現し、そこから残った二人目掛けて隕石を振り落とした。


「何だこの魔法……!」


「ファルカナさんを先に落とされたら……回避できないな……!」


 隕石が二人へと直撃し、吹っ飛んでいった。

 手は緩めない。

 私の知らないところでトーシローをボロボロにしたであろうこの人達を許さない。


「トーシロー! メア! お前らは絶対俺達が討伐してやる! 首を洗って待ってやがれ! はははははは!!」


 大声で最後に叫んだ男はダメージが限界を越えたのか消滅していった。

 もう一人の男も消えたことで、私は魔法を放つのをやめた。


「はぁ……はぁ……。ト、トーシロー? トーシロー!?」


 穴だらけになったこの部屋を見回すも、トーシローの姿は見えなかった。

 たぶん死んでしまったんだ。

 だから今は消滅してしまっている。


「だ、大丈夫だよね。前も普通に生き返っていたし……今度もまた……」


 それでも一抹の不安が拭えない。

 トーシローが生き返るのにも回数制限があったんじゃないのか、もうこれで生き返ることはないんじゃないのか。


「トーシロー……!」


 トーシローはこれからもずっといてくれると思っていた、私の唯一の友達。

 いることご当たり前だと思っていたものが失われてしまうと、ここまで悲しくなるなんて思ってもいなかった。


「…………うわあああああん!!!」


 誰もいない部屋で、私は一人泣いていた。

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