裏切り1
「…………きて」
…………なんだろう?
誰かの声がする。
「…………きなさいよ」
あー、そうだ…………ゼミの合宿があったの忘れてた。
「起きてってば!」
「遅刻した!!」
僕は勢いよく起き上がった。
ゴン!
鈍い音ともに頭に激痛が走った。
「っっつう~~~~~!!」
「いっった~~い! ちょっと! いきなり起き上がらないでよ!」
痛むオデコをさすりながら横を見ると、同じようにオデコをさすって涙目になっているメアがいた。
「あ、あれ? なんでメアが?」
「寝ぼけてるの? あなたが全然起きてこないから起こしに来たんだよ」
あ…………そうか。
僕はマジトレの世界に閉じ込められてたんだ。
というか、メアがモーニングコール…………?
「えええええ!? こ、こんなことありえるの!? 僕が夢にまで見たシチュエーションが現実に!?」
「何言ってるのか分からないけど…………それだけ元気なら大丈夫そうね。ご飯できてるから、一緒に食べよう?」
燦然としない頭を掻きながら、僕はメアの後について昨日と同じ部屋に入って席につき、机の上に並べられている朝食を食べて舌鼓を打った。
メニューは食パンを牛乳や卵や砂糖を溶かしてかきまぜたものに浸してできる、いわゆるフレンチトーストだ。
基本的に現実世界の食事となんら遜色はない。
食事を終えたあと、メアは昨日話していた付いてきてほしい場所に行くとのことで、準備をしてほしいと言われた。
準備といっても僕は装備を入れ替えるだけだから、特段時間は要しなかった。
「場所はお城の外になるの」
メアについていき、僕は初めて城の外へと出ることになった。
外へ出るにも城内をあれこれ通ったが、やはりこの城の中は相当広い。
「メアは本当にここに一人で住んでるの?」
「そうだよ。私は、生まれた時からここにずっと一人」
その時のメアは少し寂しそうにも見えた。
僕とメアは城の入り口とは反対側、裏庭のような所に出た。
裏庭は柵で囲まれており、まるで敷地が区切られているようだった。
「ここで何をするの?」
「目的はここじゃないよ。あれ、見える?」
メアが指差した方に目を向けると、柵の外側に地下へと通じているであろう入り口のようなものが見えた。
「あれは…………?」
「あの中に、SS級の宝具が眠っていると言われているの」
「SS級!?」
S級よりもさらに上なんてあるの!?
ここにきて新情報が目白押しだ!
「でも何で僕にお願いするの? メアは僕より強いわけだし、今までもいくらでも取りに行く機会はあったんじゃない?」
「私は………………お城の敷地内から出ることはできないのよ」
「えっ」
メアが嘘ついていないことは、彼女の表情が物語っていた。
暗く沈んだ、影のある顔。
彼女のそんな顔を僕はここに来て初めて見た。
【漆黒の魔女メア】、彼女が表舞台に全く姿を現さず、設定だけだと噂されていた理由はこれかもしれない。
「私は気づいた時にはここにいて、それ以来外には出たことがないの。だから、あの地下道にも入ることはできないよ」
「そっか……じゃあ僕に任せてよ! メアのために、SS級の宝具を取ってきてみせる!」
「私のため? アナタが好きに使っていいんだよ?」
「いいや、外に出れないメアのために取ってくる!」
「そう………………ありがとう」
少し微笑む彼女の姿に、僕はまたドキッとした。
「宝具は地下道の一番奥、魔法陣の中央に置いてあるらしいの」
「魔法陣の上だね? まっかせて! さっそく行ってくるよ!」
装備は一部変更した。
メアと戦った時から死んでないからか、使用回数が回復していないのがあった。
モンスターなんかはいなさそうだけど、何があるか分からない以上、万全の状態で臨むべきだ。
僕は入り口に向かって走り出した。
「………………トーシロー!」
「ん? なに?」
不意にメアに呼び止められ、振り返る。
「あ…………な、何でもない。気をつけて」
「……? そう? じゃあ行ってくるね!」
メアが少し悲しい表情をしていた気がしたけれど、もしかして僕と離れるのが寂しかったりして?
もー! メアってば寂しがり屋さんなんだから。
これは早急に回収して、戻ってくる必要があるね!
「突入!」
すぐに下へ降りる階段が見えた。
「
明かりが全く無いため、
C級の黄色の宝石で、使うと自身の周囲に光の球が付き添い、辺りを照らしてくれる。
使用回数10回で、効果持続時間は10分だ。
行って帰ってくるには充分すぎるだろう。
足下が照らされ、僕はリズム良く階段を降りていく。
階段は両手を広げると壁に当たるぐらい狭く、突然の罠にかからないように壁を撫でながら進む。
そのまま何事もなく階段を降り切ると、今度は道幅が少し広がり、直線距離が続く。
光が届かない奥の方には、まるで闇が潜んでいるかのようだ。
まだ剣は抜かない。
まだこの狭さだと振ることは難しい。
ある程度のことなら
それから約5分歩き進めるが、何事も起こらない。
拍子抜けというか、本来ここはメアを倒したプレイヤーのみが来れるエリアなんじゃないかとも思える。
それほどまでに静かだ。
すると、広い広間のようなところに出た。
中央には巨大な魔方陣が淡く光っており、宝箱がポツンと置いてあった。
「見っけ! これのことか」
僕は走り出し、魔方陣の中の宝箱へ駆け寄った。
全然楽勝じゃないか。
準備する必要なかったな。
僕は宝箱に手をかけ、中を覗くと一輪の赤い花があった。
「これが宝……? あまり宝っぽくはないけど」
僕が花を手にして荷物画面へしまった瞬間、地面の魔方陣が強く発光し始めた。
「なんかやばそう…………」
発光している魔方陣に危機感を覚えた僕は、すぐさまその場から離れようとした。
が、魔方陣から伸びてきた無数の光の鞭のようなものが僕目掛けて襲ってきた。
「うわっ!?
近づいてくる鞭を切り落としたが、鞭の数が多く、抵抗むなしく僕は多くの鞭によって体を拘束されてしまった。
「こ、この!!
鞭を切るために魔法を使おうとしたが、何も起こらない。
回数切れを起こしているわけでもないのに、なんで?
「
何も起こらない。
まさか、この鞭には魔法使用を封印する力があるのか?
「ふ……んっ…………うわっ!!」
抜け出そうと鞭ごと前に進むが、中央に戻された勢いで地面に激しく叩きつけられる。
生半な力では抜け出すことができない。
剣を抜こうにも届かない。
魔法は封じられている。
この魔方陣から抜け出す術がない。
それでも僕は、あきらめず前に進む。
「メアが…………メアがこの花を待っているんだ…………うぐっ!」
またしても叩きつけられた。
顔が血と泥で汚れる。
それでも僕は諦めずに前へと進んだ。
封印されてからどれだけの時間が経ったか分からない。
何時間、何十時間かもしれない。
スタミナという概念はないけど、僕の精神は確実に疲弊していた。
それでも僕は足を止めることなく前へ歩み続けては叩きつけられを繰り返していた。
「はぁ……はぁ……絶対に諦めない…………! この花をメアに届けるんだ…………!」
永遠とも思える時間を、僕はただ一人で抵抗を止めることはしなかった。
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