VRMMO〜ゲームの中の魔女に一目惚れした僕と彼女の30日間生活〜

旅ガラス

挑戦1

「藤四郎。これからカラオケ行くか?」


「いや、悪いけど僕にはやらなきゃいけないことがあるんだ」


 大学の第3セメスター(2年次の春学期)が終了し、いわゆる夏休みに突入している今日、明日から始まるゼミの合宿に向けて軽く打ち合わせという名目のダベリで集まっていた僕は、中田からのせっかくの誘いを断った。


 仲良くしている中田と山本。

 この二人とは気が合うようで、普段の学校生活でも授業が被ればよくつるんでいる。


「藤四郎はダメだって中田。こいつここ最近ずっと『マジトレ』にハマってて付き合い悪いんだから」


「『マジトレ』って…………ああ、一時期流行ってた奴か? どうせVRMMOやるなら『ドラゴンズナイツ』とか最新の奴やればいいじゃん」


「分かってないなぁ……田中」


「誰だよ。名前ひっくり返すなよ」


「僕はVRMMOをやりたいんじゃなくて、『マジトレ』をやりたいんだ。『マジトレ』じゃなきゃ意味が無いんだ」


 中田が山本に「こいつ頭やっちゃったのか?」と指で頭をクルクルするジェスチャーを行った。


 失礼な。

 超正常だっつーの。


「何でもいいけどよ、あんまり付き合い悪いとハブにされるから気を付けろよ」


「せっかく大学入ったんだからリアルも楽しまねーとな」


「それは確かに。誘ってくれるだけありがたいことだね。中田も山本も今度また頼むよ」


「あいよ。あ、でも明日だけは寝坊すんなよ? 一応朝、お前の家に迎えに行くからよ」


「オッケー」


 僕は足早に一人暮らしである自宅へと帰った。




 VRMMO。


 これが一般家庭に主流化してから10年近く経つ。

 フルダイブ技術は衰退を始めていたゲーム社会において革新的な技術だった。


 現在では既にネット世界と結び付いた様々なゲームサービスが配信されている。


 中でも一時いっときブームとなったVRMMO、『MAGIC OF TREASURE HUNTERS(マジック オブ トレジャー ハンターズ)』、通称『マジトレ』と呼ばれる、魔法を使い、あらゆる宝を手に入れることが目的の異世界ファンタジー風オンラインゲームは有名である。


 現在ではその他にもVRMMOがサービスを開始し、好評を得ているせいでその人気は下火となり、徐々にオンラインとなるプレイヤーは減ってきてしまっているが、そんな中でも僕、白柳しろやなぎ藤四郎とうしろうは毎日のようにログインしていた。


 それは何故かって?


 それを話すためには『マジトレ』の大まかな内容を説明しなければならないだろう。


『マジトレ』はトレジャーハンターとして謳ってはいるが、その中身については主に直接的な戦闘が主になっている。

 自身に直接かかるステータス等や特殊スキルといったものは存在せず、あるのは装備品と宝物のみ。


 なので剣を持って戦う場合には、多少のゲーム内補正によって動きが軽くなるが、基本的には自分の運動神経がそのまま反映される。

 そして魔法は初期状態では何も使うことが出来ない。


 これだけ聞くとハードモードのクソゲー感溢れる仕様となっているが、『マジトレ』の仕様で一番重要なのが装備だ。


 鎧や法衣などの装備は当然として、その他にプレイヤーには装備枠が10個設けられている。

 これは手に入れた宝を装備するための枠だ。


 この世界ではそれぞれの宝に特殊スキルが付いており、宝を装備することによって自身がその特殊スキルを使うことができるようになる。

 例えばランクEの赤い宝石レッドストーンには【火球ファイヤーボール:回数3】という特殊スキルが付いている。


 これを専用の装備枠に装備することによって、プレイヤーは火球を冒険中3回まで使えるようになる。

 使い切ってしまった宝石は、町にある魔術商の元に行けば回数が回復するのだ。


 この宝の装備をアレコレ変更させることで、パーティを組んだ時に回復担当や戦闘担当と担当分けをすることができる。

 ちなみに装備変更ができるのは、各都市内だけであり、ダンジョン等に潜っている最中に装備を変更することはできない。


 この他にも宝は剣であったり、盾であったり、指輪であったりなど、魔法以外の特殊スキルを備えているものが存在する。


 そしてその宝はダンジョンを攻略したり、モンスターを倒したり、プレイヤー同士の承認決闘によって手に入れることができ、非常にやりこみ要素の高いものとなっているのだ。



 そこで話は元に戻る。

 何で僕が今このゲームにハマっているのかという話だけど、もちろんやり込み要素が高いというのもある。

 初めはそれが目的だったし。


 でも今は違う。


 このゲームには所謂、魔王といった大ボスのようなものが存在しない。

 ゲームのストーリー的には悪い魔女がモンスター達を操り、世界を脅かしているという設定にはなっているが、魔女が実際に表に出てくることはなく、魔女の元へ行くための道のりも険しく難しいのだ。


 一度、年に2回行われる決闘大会に名を連ねる上位ランカー達が、パーティを組んで魔女の住む城まで向かいなんとか到達したことがあるが、魔女が強すぎて即全滅したことがある。

 その頃から『パワーバランスのぶっ壊れたクソゲー』や、『絶対勝てない負けイベント』と呼ばれ始め、やる気を無くした上位ランカー達が居なくなったことにより、過疎化が進んでしまったのだ。


 ただ、上位ランカーが魔女の元へと行った時、一人のプレイヤーが戦闘動画を撮影していたようで、初めて魔女の姿がゲーム内で拡散された。


 僕はそれを見た時に心を奪われた。


 黒色の三角帽と法衣を身に纏い、複数名の攻撃を防ぎながら強力な魔法攻撃を繰り出す彼女は美しかった。


 そして彼女は【漆黒の魔女メア】と名乗っていた。


 これによりネット内でも一部の人達は盛り上がり、運営もそれを見越していたかのようにメアのグッズ販売を展開した。

 もちろん僕はそれを保存用、鑑賞用、実用用、そして布教用と常に4つはストックしておくように買った。


 メアの何が良いのかを僕に語らせたら、1日では語り尽くせないと思って欲しい。


 こうして【漆黒の魔女メア】のおかげで再び熱を帯びた『マジトレ』だったが、上位ランカー達が辿り着いて以来、誰も魔女の元へと辿り着くことができないせいで、最近では世間の熱も冷めてきてしまっているようで、さらにはステータスありきのVRMMOの方が人気があるのも後押しし、再び過疎化が進んでしまっているのだ。


 そんな中でも僕は変わらずメアに会うために、新たな宝を手に入れて攻略を目指しているというわけだ。

 でもやっぱり当時の上位ランカー達がパーティを組んでやっと到達した場所にソロでやってる僕が到底辿り着けるわけがなく、かといってゲーム内に知り合いがいるわけでもない僕がパーティを組むこともできない。

 なので、ただ悪戯に時間が過ぎていくだけなのである。

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