妖《キミ》と生きる
笹師匠
妖のいる世界
ある日、国連が突然妖の実存性を認めた。
急速に社会進出を果たし、人間には不可能な仕事もそつ無くこなす事が出来る妖怪は、人間達にとって最高のパートナーとなっていった。
僕……
そうは言ったが、別に僕は人外が大好き!とかそういう趣味は皆無である。知識として妖怪の特性に他より多少詳しいだけで、特段そういったもの達が恋愛対象になる事は無い。……だが、ある朝他の学生より少し早めに登校したら、机の中に手紙が入っていた。読んでみれば、『今日の放課後、あなたの事を体育館裏で待っています。』と可愛らしい文字で書いてあるでは無いか。僕は『どうせ誰かがからかって突っ込んだのだろう。騙されやしないからな』と歪んだ思考に走ったが、自身にそんな事を仕掛ける程の価値があるか否か、と思考がズレた途端もう体育館で待ち受けるのが誰なのか、想像して耐えられなくなった。
かくして、僕は簡単とは言い切れないものの難解とまでもいかない退屈な授業を平々凡々とやり過ごし、放課後の体育館裏に臨むのであった。
「……あの、
「どうしたの
まさか、と思った。頭から正真正銘の鼠耳が生えている小柄な少女が、本当に僕の事を体育館裏で待ち構えていた。
そんな彼女が何故、クラス内での成績も容姿もパッとしない僕の事を呼び出したのか想像が出来なかった。
「私の事、御剣君はどう思ってる?」
「可愛いな、とは思っているよ。月並みな感想で申し訳無いけれども」
「月並み……何か、御剣君てパパみたいな喋り方するんだね?あっいや、パパってそういう事じゃなくて、正真正銘のお父さんの方のパパだよ!?古風って言いたかったの!そう!!」
────矢継ぎ早に繰り出される言葉の波に、僕は思わず口から、自分ですら気持ち悪いと思う笑い声が出てしまった。火々谷さんはそんな僕の顔を嫌がる訳でもなくじっと見据えて、急に僕の両手を取った。少しひんやりしていて柔らかい感触に、図らずも背筋が硬直してしまう。
「改めて御剣君。私と付き合って欲しいの」
一瞬僕は自分の耳を、脳を疑った。
否、最早変態じみた発言ではあるがそれは断じて無い。女性に触れた事が無ければ、恐らくその感触を、絶妙な点に於いての差異を、完璧な状態で理解し思い出す事は出来ようも無いと……そして火々谷さんの発言が幻でも夢でも無く、唯一無二、他ならぬ現実である事を僕は確信した。
「何で……僕なの?火々谷さんくらいの美少女なら、他に良い人が居そうなものだけれど」
「そんな恥ずかしい事、躊躇も惜しげも無く言える人はそういないと思うよ……うん」
頬を赤らめているのは羞恥からだろうか。僕には褒めてくれる相手も久しく居なかったから分からなかったが、取り敢えず一つだけ僕にでも理解出来る事があった。
「火々谷さんは可愛い……」
「何で二度も!?」
そのまま僕と火々谷さんは連絡先を交換し、何故か次の日も同じ体育館裏で会う約束まで取り付けてしまった。僕の学生生活は一体どうなってしまうのだろう。
余談だがこの日、僕は何故か目が爛々としてまともに眠る事が出来なかった。
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