第19話 テスト後のいつもの


 実技テストも無事終了だ。後半の魔導師系貴族たちの実技はすごかった。自分のワンドがちょっとピシピシ音を立てたくらいで興奮していたのが恥ずかしいくらいかっこよかった。

 放課後になりいつものメンツで固まると、すぐさまこの興奮を叫んだ。


「いやー、すごい。氷の花を作ったり五つも火の球を作ったり、本当にできるんだな。すごい!」


「頑張ってたよね、魔導師系のやつら」


 ユーリがうなずきながらそう言った。

 ジュドーも


「魔法の実技ってのはああいうのを言うんだな。想像していたよりずっとレベル高かったな」


 と感心していたし、ロベルトも


「見てて楽しかった」


 と言ったので全肯定した。


「ほんとそれ! あー! もっと見たかった!」


「ははは、……ハール、魔法の実技って見世物じゃないからさ……」


 ユーリが苦笑いを浮かべている。


「そうかもしれないけど。あ、そっかユーリは中等部でなんども受けてるから珍しくないんだもんな」


「いや、そんなことはないけど。これまでの実技は個室でそれぞれ受けてたから、あまりほかの生徒の魔法は見たことないんだ」


「そうなんだ。なんで高等部ではみんなの前でやらせたんだろ、逆に」


「わかんないけど、……もしかしたら高等部からは実践が入るからかも」


「実践?」


「うん。実際に使ってみるんだよ。よくわからないけど、治癒魔法とか、防御魔法とかを実際にかけてみるとかさ、……あとは、対戦みたいな?」


「対戦? それって、魔法で戦うってことか?」


「まじかよ!」


 ロベルトが驚きの声を上げる。


「無茶だろ! 俺にはできない!」


「いや、だからただの予想だよ。実践になったら、ほら、……それぞれの魔法のレベルが分かってたら、変に決闘みたいなこともしなくなるんじゃないかなって、先生たちが思ったのかもしれないしさ」


 ジュドーがそれに反応する。


「そんな回りくどいことするか?」


「心理戦だよ。それに、……シュライゼンではちょっとした対立が酷かったし。……きっとこれからも目立ってくると思うから言うけどさ、代々シュライゼンには貴族対魔導師の対立構造があるんだ」


「それって、ロキのいるクラスで起こってるやつか?」


「そう、ジュドー、まさしくそれ。あそこにギュッと濃縮されているけど、本来は学年……いや全校をひっくるめた歴史ある抗争なんだ」


「歴史って」


「歴史なんだよ。それぞれの派閥の主要メンバーに選ばれることが、それぞれの派閥での誉れみたいなものでさ。中等部で俺たちの学年が主導権を握ったときにトップに立ったのが、貴族派のアナベル・クロムウェルと魔導士派のマーライヒ・シュゼットヒル。もちろん、二人とも上の学年にも頼りにされている存在だし顔も広い。来年上がって来る下級生にも尊敬さえれている。今現在は一クラスの中で収まっているけど、この対立は近いうちに必ず学年全部に行き渡るし、上の学年からも絶対に動きがあるはずだ」


「じゃあさ、むしろ全生徒の前で魔法の実力を見せるのは派閥を作りやすくさせてしまうんじゃないのか?」


 ロベルトの意見は最もに思えた。


「そうだね。そうなんだよね……」


 ユーリも力なくつぶやく。困り果てているように見える。


「でも、こう考えてしまったんだ。……品定めしやすい分、教師もきっと生徒を操りやすいだろうなって。……つまりだよ? 教師たちによって俺たちはコントロールされている立場になった。今回の実技の結果を見て、どの生徒にどの生徒が目をつけたかを見定めたんじゃないかって。品定めをしている生徒を品定めした、っていうかさ」


「あえて見える場所で群れを構成させるってことか。群れの可視化」


「うん、そんな感じ」


 なんだか楽しくなってきた。


 さて、俺たちは予定通りに放課後のスイーツを堪能しに食堂に来ていた。寮ではなく学校内の食堂だ。実を言えば、寮の食堂は先輩たちに占拠されていて、新入生が入り込める雰囲気ではなかったりする。学校内の食堂もそうではあるのだが、広いので居場所がある。


「ここって結構スイーツの種類が豊富だよな。やっぱり女子が多いからかな」


 そういったのはロベルトだった。


「騎士学校だと男が多いからかカロリー系の食べ物が売店を占めてた……。甘いプシプディングとかたまにあったけど。あれは人気だったなぁ。むさっ苦しい先輩たちが争うように買ってたっけ」


「プシプディングってなに」


 聞きなれぬ単語に俺は聞いた。


「庶民でいうところのプリンだよ。ぷるっぷるした甘いやつ。卵とミルクと砂糖だけでできてるようなやつ」


「プリンか。それよくおやつに出てたな。こんな小っちゃいやつだろ。クリームとフルーツでかわいくデコレーションしてさ」


「いや、そんな貴族の食べ物じゃなくて、騎士学校の売店のは、こう……タッパーに卵液入れて蒸した感じのやつにカラメルソースを流しいれて棚に並べてたような、戦場のプシプディングだった」


「戦場の……」


「久々に食べたくなったな。プリンにしよ」


 メニューにはプリンもプシプディングもなかったが、ボルプディングがあった。これは蒸したものではなくオーブンで焼いたものらしい。

 一口食べさせてもらったら、甘さは控えめで、プリンの味だが固めの食感だった。

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