貴族学院の魔法使い
十龍
第1話 序章 とある国のとある学園のおはなし
「くっそ、誰の仕業だ、……許さねぇ……!」
校舎の中央、大広間の真ん中で青い光に拘束された男子生徒が一人、取り囲む生徒会の人間から注ぐ冷たい視線にさらされながら悔し気に彼らの先を睨んでいた。
「許すも何も、規律違反者の代表は君だ」
生徒会長が告げる。
けれど、青い光に拘束された生徒は生徒会長を見ていなかった。その先にいる別の生徒を睨んでいた。
「お前の仕業か……!」
その『お前』と思われる生徒はこれといった反応をしなかった。なので生徒会長は、背後でたむろしている群れの中から『お前』を特定することはしなかった。
そしてため息を吐いてから後ろを振り返った。
「君たちも、本来であれば規律違反者として扱うこともできるのだけれど? 貴族派の方々?」
貴族派。
そう呼ばれた生徒の群れはくすくすと笑った。
そして一人が言う。
「生徒会長様、あなたもその貴族ではないですか?」
「確かに身分的には貴族だけれど、貴族派というような陳腐は派閥に入ってるつもりはない」
「これは失礼いたしました。僕たちもそちらで哀れに捕まっていしまっている生徒も、陳腐です。ああ、陳腐。陳腐な上に自滅なんていうものはもっと陳腐」
その言葉に、拘束されている生徒が反応する。
「自滅だと?」
噛みつかんばかりの憎しみで睨む。
同時に生徒会長も、貴族派という生徒たちを冷たい目で睨んだ。
「自滅? ではこの有り様は、先に魔導師派たちが自ら仕掛け、失敗したというのか? 君たち貴族派は関与していないと?」
「それはそうでしょう? どう見たって、これは魔法」
大広間には、青い光の網が貼られていた。四方八方から伸びた青は美しい幾何学の文様となり、一人の生徒を中央に捕らえ、その周りで十数名の生徒たちを氷漬けにしていたのだ。実際に氷漬けなのかはわからない。もしかしたら青い宝石の中に閉じ込めたのかもしれない。
「僕たち貴族が、こんな魔法を使うと思いますか?」
貴族派の生徒はにっこりと笑う。
青い光に拘束されているのは、魔導師の家系に生まれた生徒たちだ。
生徒会長は静かに答えた。
「いや、……貴族たるもの、魔法など使わない……」
魔法とは従者である魔導師が使うものであり、主たる貴族が使うものではない。
「でしょう? ですので、この有り様は彼らの自滅ですよ。自滅。我々貴族派に嫌がらせをしようと悪だくみ、失敗をしたのでしょう。ああ、不憫だなぁ」
「黙れ! 生徒会長、そいつの言うことは嘘だ! これは貴族派に仕掛けられた罠だ」
「しかし、貴族派が魔法を使うことは、」
ありえない、と生徒会長は口にしようとして、つぐんだ。
そして代わりにこう言った。
「……、では、君たち魔導師の血脈は、貴族ごときに魔法で負けたということになるが、それでいいのかい?」
と。
「……」
「……」
魔導師派の代表は言葉を発するとができなかった。
魔導師には高い高いプライドがある。魔法に関して誰よりも優れている。貴族などには決して劣ることはない、そのような自負。決して覆ってはならない真実。
だが、
「ああ、そうだ。そっちにいるだろう? 貴族でありながら、魔法を使う異端者が。生徒会長、そいつを捕まえてくれ」
そうすれば、チェックメイトだ。魔導師派の代表は諸刃の剣の提案をあえてあげた。
貴族派の持つ隠し玉。魔法を使う貴族。
そいつがいなくなれば、貴族派にここまで翻弄されることはない。
しかし、
「その者の名を言えるか? 貴族を魔法使いと同等に扱えば、不敬罪となるかもしれないが?」
生徒会長が、魔導師派の代表にもう一度問う。
「言えるとも。そいつの名は、……」
「待ってくれないか」
制止したのは貴族派の代表だった。
「不敬というよりも侮辱に値する。上げた名を持つものが、これからどのような不当な扱いを受けるかを想像してほしい。もしも、その人間が魔法など使えなければ、冤罪であり、もしかしたらこれをきっかけにあらぬ噂が立てられ、生涯において差別されるかもしれない。そして、もしも本当に貴族でありながら魔法を使えるのであれば、その人間はこれから一生涯、差別に苦しむだろう。一般市民が魔法を使えるならばそれは尊ばれる。しかし、貴族社会ではそうではない。今、君たちのやろうとしていることは、一人の人間の生涯を台無しする行為なんだよ? 君たちには、その人間が、どんな立場なのか、分かっているのかな?」
貴族派の代表は、後半の言葉を一語一語区切り、分からせるようにゆっくりと告げたのだった。
それでこの件はお終いとなった。
魔法によって捕らえられた魔導師の生徒は、己の魔術の失敗で騒動を巻き起こしたとされた。
貴族派と魔導士派の長い長い争いの小さな一幕は、これにで終結。
とある国のとある学園のお話し。
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