37.謁見は唐突に

─37.謁見は唐突に─


「ん?駆逐艦を見た?」

「ああ、かなり遠かったがな」


夜、皆が寝たあとにベルドから「話がある」と呼び出された


「艦級は?」

「それがかなり遠かったのと、駆逐って似たようなのばっかりで判別つかなった……でも多分形状わかってても流石の私も全て思い出せないぞ?」

「なるほどなぁ……」


にしても駆逐艦かぁ……

一体どこの国が運用しているのやら……


ルーバス及びこの辺はアメリアに聞いた限りじゃ『海上戦力はイルグランテ』という認識らしく、そのイルグランテの国民であるサセン達も『自国の戦闘帆船がやられる筈がない』と思っていた


つまりこの付近の国ではなく、ルーバスやイルグランテが認識していない国の可能性が高い


となると……


「………海の向こうに駆逐艦を運用している国があるのか……?」

「確かにそれはあるかもな、私が魔王やってた頃は今程帆船技術も進歩していなかったし、遠洋には強力な海中モンスターもいる。今でも未開の可能性はあるな」

「なるほどな」


となると、安全に確認しに行くには現状だと長門を動かす以外ないということか

航空機はNGだ、そもそも向こうで着陸できる手立てがない


「……もしかして長門動かす人数で困ってる?」

「……ああ、確認しに行こうにも流石にあと1800人集めるのはなぁ…」


「ならさ、『大艇』でいいじゃん?」

「タイテイ?………ああ、『空中戦艦』か……いや、現状キツいだろ」


『空中戦艦』とは当時大日本帝国海軍が運用していたバケモノ飛行艇こと『二式飛行艇』の事だ

最高時速約465km/h、航続距離約8000kmという当時類を見ない、というか現在でも十分に通用してしまうレベルの超変態機だ

その証拠に現在自衛隊が運用しているUS-1やUS-2はコイツの後継機だが、外観に大きな変更点が見られない

しかもこの性能で滑走路がいらない

コイツの滑走路は海だ

飛行艇とは海から離水できる特徴をもった飛行機の事だ


ピンと来ないやつは空飛ぶ豚のアニメ映画を想像してくれると助かる


ちなみに当時他国が運用していた飛行艇の性能は


二式飛行艇(日)……航続距離8223km、最高時速465km/h、投下兵装2t


PBY-5A カタリナ(米)……4030km、314km/h、1.8t

PB2Y-5 コロナド(米)……1720km、310km/h、5t

PBM-1 マリナー(米)……4800km、330km/h、1.8t

サンダーランドmk.Ⅲ(英)……2848km、336km/h、片側450kgまで、空中再装填可能

BV138C-1(独)……4300km、285km/h、爆弾300kgまたは対潜爆雷600kg


US-2救難飛行艇(自衛隊、現役)……4700km以上、480km/h、兵装無し、水陸両用


となっている

ここだけでもこの二式飛行艇がどれだけ規格外かわかるだろう


しかしコイツにも弱点がある

それは『整備性』だ


飛行艇は海で運用した場合、使用後は腐食を防ぐために真水で洗浄する必要がある


そして洗浄する為には一度陸に上げなければならない為、海にスロープを設ける必要がある


そしてここでコイツ二式飛行艇の機体的問題が出てくる

コイツ二式飛行艇にはなんと滑走路から離陸したり、海から上陸する為の主脚がない


陸上に上げるためには840kg近い台車を『人力で』取り付ける必要がある


更には操縦桿が油圧式じゃない


飛行艇、水上機運用にはかなりのコストが掛かるんだ

おいそれと作れるモノじゃない


41cm砲を見つけた時にチラッと出てきた状態をもとに戻す魔術……所謂『復元魔術』もあるにはあるらしいが、生憎ウチで扱えるのもいないしな……



それに飛行艇は離着水時に事故が起きやすい

なんせ常に状態が変化している海面を使うんだ、ちょっとでもミスったらそこで終わりだ


こんなに面倒臭いものを作るくらいならぶっちゃけ飛行場作って大型機飛ばした方がマシ

日本以外の国が水上機や飛行艇をそこまで作らない理由がコレだ


まあ日本が水上機使ってたのも『領土が島国ばかりでそもそも飛行場が作れないから』ってのもあったからな……



「確かに二式飛行艇を扱えれば色々便利だ、しかし前提設備がなさ過ぎるし、いかんせん俺達の操縦スキルも無いしな……」

「そっか……そうだよな……なら仕方ないな」

「ああ、だが何か手立ては考えとくよ」

「わかった……それじゃおやすみ」


そう言ってベルドは戻っていった


しかしな……


「運用している、つまり『知識がある人間』が居るのか」


教団の様に魔術で知識を手に入れているのか

それとも……


「俺や美崎と同じ奴がいるのか……?」


〜〜〜〜〜


「永一くん、クリスタ姫様から『謁見の準備が整った』だって」

「「!?」」ガタッ

「そうか」

「………もうちょっと驚いてくれてもいいんだよ?」

「もう慣れたし、謁見については諦めてた」


翌朝、俺達が朝食を食べていたらいきなりエルマスさんが現れた

ちなみに朝食はそこの海で捕れた魚介類をものの試しで塩焼きにして食ってる


皆は美味そうに食っているが、俺と美崎は何とも言えない顔をしていた


そう、醤油と米が無いのだ……


くそう、こんなに米が欲しいと思ったことなんてないぞ………!


これは何か代用食材を見つけない限り和食はNGだな……


ちなみに第五竜騎隊の方達は飛竜に餌をやりに行っている


魚介類でも問題ないそうだ……

てっきり肉食かと思ってた……

魚食の飛竜とか違和感しかないぞ……


「………ちょっと、話聞いてる?」

「すまない、米不足で聞いてなかった」

「コメ?」

「そんな事より謁見だっけ?どうすればいいんだ?」

「明後日ウチザギの東門に来てよ、謁見には私やバーチス指揮官も行くからさ」

「わかった………ちなみに何で行けばいい?生憎インプレッサは故障中だぞ」


インプレッサはつい先日運転中にはしゃぎすぎたリンがWRCもかくやという特大ジャンプを披露、無事に着地出来たが、案の定リアサスペンションがお亡くなりになった為、現在不動車だ


いままでかなり激しい運用をしてたからそろそろかと思ってたが、とうとう耐えきれる許容範囲を超えたようだ


むしろリアサスペンションだけで済んだとホッとするべきか



時間があれば直そうと思っているんだがな……


「ならあの戦車で来てよ。クリスタ姫様も興味津々だったんだし……」

「だからあまり持って行きたくないんだが……仕方ないか……」


IS-2とISU-152-2の修理は終わっている、それで行くしかなさそうだな


「明後日に東門だな。了解した」

「待ってるよー」


そう言ってエルマスさんは帰っていった


「ど、どうしましょう永一さん、私、正装なんて持ってないです」

「いや、鎧あるだろ、あれ騎士の正装じゃないのか…?」

「あ……そうでした……」


おいおい……


「え、永一くん、私達異世界人だから礼儀作法も知らないし正装もないよ……?」

「学生服無いのか?あれ一応学生の正装に該当するぞ、それと礼儀作法は諦めろ」

「そういえばそうだった……」


ん……そういえば


「アメリア達はそんなに緊張してないのな」

「まあね」

「礼儀作法は教わってますしね」

「確かに」

「僕も国は違えど元騎士ですからね」


確かに、礼儀作法は教養に該当するしな

んで、それでもリンは緊張しまくってテンパってる……と


「イオは……なんかいろいろ教わってそうだからなぁ……」


なんか姫様とも学生時代の友人らしいしな


「ええ、まあ……というか貴方達も『学生』だったんですか……という事は貴族が身内に?」

「ん?学生だったが、どういう事だ?」

「学生の殆どは高い授業料が払える貴族の身内が多いんですが……違うのですか?」

「ああ、なるほどな。こっちじゃあ学校は義務教育じゃないのか」

「義務教育……?ちなみにお二人はおいくつなんですか?」

「俺は17だ」

「私も」

「……という事は2年以上留年しているのですか?」

「いや?普通だが……」

「????」

「あー、多分世界跨いで教育方針で齟齬が発生しているな……リンとかこの国の教育課程とか永一たちに説明できないか?」

「あー、わかりました」


俺達はこの国での学校について説明を受けた

どうやらこの国では入学からスムーズに行けば15歳で教育課程を修了するらしい

入学は最低6歳からで初等部3年、中等部3年、高等部3年でそれぞれ1~3年生に区分される

各学年では最低3年修学することが必須となっており、その条件を達成すれば進学試験を受ける事ができる

初等部→第一次進学試験→中等部→第二次進学試験→高等部→卒業試験と3年の教育課程+試験でワンセットになっているのが3セット組まれている

途中入学も可能な様で、入学試験時の結果と年齢に伴い学年が決まるみたいだ


しかし義務教育では無いため、授業料が払えずに学校に通わずそのまま成人する人も多いようだ


そのせいで『学生=貴族の身内』というイメージが強いのが現状とのこと


んで、ここで俺達が『17歳の高学年高校生』とわかった事で変な誤解が生まれたようだ


「なるほどな……確かに違うな」

「そうなの?むしろあんたたち異世界の学校について知りたいわね。あ、私達亜人連合も大体ルーバスと同じよ」


「へぇ、亜人連合でも同じなのか………っと俺達だな……俺達の場合は普通は小学6年、中学3年、高校3年、大学4年の計16年だな」

「へー、そんなにあるんだ」

「ああ、んでこの中で義務教育として決まっているのが中学までの9年だな」

「それ以降は行っても行かなくてもいいんだ」

「ぶっちゃけるとな。けど大学まで行くことが当たり前みたいな風潮もあったし、義務教育云々は気にしないでくれ」

「というか『義務』ってことは……」

「ああ、『この年齢の子供は絶対に学校通えよ』って意味だ、『すべて人は、教育を受ける権利を有する。教育は、少なくとも初等の及び基礎的の段階においては、無償でなければならない。初等教育は、義務的でなければならない』だったかな?どっかの条約とか宣言とかかは覚えてないが」

「 世界人権宣言 第26条だね。他には

『初等教育は、義務的なものとし、すべての者に対して無償のものとすること』っていうのもあるよ

確か経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約第13条だね」

「すげえな、よくそこまで知ってるな」

「それなりに勉強してましたから」


「……へえ、あんたたちの世界にはそんな条約なんてあるんだ」

「ああ、多少なりとも勉強させてれば人格の発達や道徳心の向上にも繋がるからな」

「確かにそれはあるわね、でも授業料とかはどうなっていたの?全員が全員払えるわけじゃないんでしょ?」

「それは条約にもある通り『国』が負担してるよ。そうする価値があるからな」

「なるほどねぇ」


そんな話をしていたら第五竜騎隊の面々が帰ってきた


「どうしたんだ?」

「ああ、数日後ルーバスの帝都に赴いて国王に謁見しなくちゃならなくなった」

「随分急だな、というかここから帝都までかなり距離があると記憶しているが……飛竜を使うでもあるまいし、陸路だろ?準備しなくて大丈夫なのか?」

「明後日ザギに集合の予定だから問題ない。それにザギまで3時間と掛からないからな」


サセンは何か察しが付いたようだ


「なるほど、優秀な『足』があるのか」

「そういう事だ、……ちなみに君達も来たほうが良いと思うんだが、どうかね?」

「ふむ……確かにな」


サセン達第五竜騎隊は不可抗力とはいえ現在密入国して滞在している状態だ

なので正式に滞在許可を貰いに行くのと、今回の報告でな


未然に防げたとはいえ、イルグランテは休戦協定を無視して侵攻してしまった

そこのについての対応だ


流石にサセンもこれはどうにかしようと思っていた案件らしくすぐさま回答が出た


「わかった、では私達も行くとしよう」

「了解、今回もベルドには悪いが拠点の警備をお願いするよ」

「わかった、ついでに『例の件』を進めとくよ」

「ああ、頼んだ」


「しかし、私達が飛竜で向かうとあらぬ誤解を生んでしまう可能性がある、何か手はないだろうか?」


サセンがおずおずと聞いてきた


「なるほど、確かにな……」


となるとどうするか…

追加で戦車創ってもあまり内部は見せたくないしな……


あ、ISU-152-2の戦闘室後方、エンジンルーム上に兵員輸送用の空間でも設けるか


まだ時間はあるし、突貫でも作れるか


バーチス指揮官とかも乗せる予定だったしな


「わかった、そこは対策しておこう」

「助かる」


「んじゃ、明後日ザギに向かってから帝都で国王に謁見だ、各自準備するように……ベルドはちょっとこれから俺と日曜大工だ」

「また何かするのか、わかった」


「それでは解散」


俺達は数日後の謁見に向けて準備に入った

んで俺とベルドは日曜大工の時間だ


さてさて、人間3Dプリンターの実力を見せてやるぜ



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