霞んだ手袋の向こう側
初日の出を見るのにちょうど良い穴場を探して立ち寄った神社、その寂れた風景の中に立つ地蔵はどこか物憂げに見える。どの様な謂れがある場所か分からないが落ち着いて初日の出を迎えられることは確信できた。
寒さの中、手袋をした両手を吐息で温める。
「ここにしよう、なんてな」
意を決して、来た道を人生で一番急いで戻り始める。去年の銘くじ占いで買った刀を確認しながら悪路を進む。刻まれている銘は天耳通。
「お洒落な白鞘だな」
木目が美しい。思わず撫でてみる。変わらぬ手触りに感動しながら歩く。
地蔵を通り過ぎたすぐ後の急な階段、手入れもされておらず状態が悪い。気を付けながら降りていくと背後から刀が体を突き抜けた衝撃で吹き飛ばされ階段を転落していく。
ズドドドゴロゴロ、ゴトゴトゴチバキ、ドシャボシャボキグシャ
目を覚ますと寂れた風景が心を癒した。頭をぶつけたようだ。起き上がるとボロボロの神社が視界に入る。どうやら悪路に足を取られたようだ。
「嫌な夢まで見るし、最悪だな」
白鞘を撫でながら歩き出す。足早に地蔵の前を通過し階段の途中で振り返る。もちろん何も居ないようだ。安堵したその背後から刀が体を突き抜けた衝撃と共に引き投げられて階段を転落していく。
ズドドドゴロゴロ、ゴトゴトゴチバキ、ドシャボシャボキグシャ
目を覚ますと寂れた風景。頭をぶつけたようだ。起き上がるとボロボロの神社が視界に入る。悪路に足を取られたのだろうか。
再び白鞘を撫でながら歩き出す。地蔵の前を通過したが階段に進めない。夢に実感がある。周囲を確認する。やはり誰も居ないようだとひとしきり確認した背後から刀が体を突き抜けた衝撃で階段を転落していく。
ズドドドゴロゴロ、ゴトゴトゴチバキ、ドシャボシャボキグシャ
静かに目を開けた。起き上がるとボロボロの神社が視界に入る。
白鞘を撫でながら、まだ聞こえる話し声に耳を傾ける。その内容は最初から何度も繰り返されている話の続きだ。つまりボロボロの神社の反対側。裏山の入り口で今話している複数人は犯罪グループで、口にするのも憚られる行為の果てに遺体をこの裏山に埋めているのだ。また一人埋めたらしい。
意を決して裏山の入り口に歩いていくと、口にするのも憚られるような集団暴行の果てに刀が体を突き抜けた状態で階段から転落していく。
ズドドドゴロゴロ、ゴトゴトゴチバキ、ドシャボシャボキグシャ
目を開けた。ボロボロの神社の前で。
激烈な暴行で生じた感情は殺されていった被害者達の怨嗟の声にも思えた。いつの間にか発してしまったその声は犯罪グループに気付かれてしまう。急いで逃げだす。
「あの人数じゃどうにもならない」
階段へ進もうとしたとき咄嗟に身をかわすと同時に、犯罪グループの一人が振った刀が地蔵の顔を直撃した。その後、口にするのも憚られるような集団暴行の果てに刀が突き抜けた状態で階段を転落していく。
ズドドドゴロゴロ、ゴトゴトゴチバキ、ドシャボシャボキグシャ
目を開けた。ボロボロの神社の前で。
はっきり覚醒した意識は声を抑えつける。全力で階段へ向けて疾走する。その大きな足音が肝を冷やした。案の定、犯罪グループの先回り。
「ああああああ!!」
生きる気力そのものから、根底から奪い去る悪意と暴力に怯えて身をかわすと同時に犯罪グループの一人が振った刀が地蔵の顔を直撃した。飛び散った石の破片に驚いて地蔵の顔を見た。
地蔵が泣いている。そこで初めて犯罪グループメンバーの表情に意識が向く。
ある日地中から見つかった多数の白骨遺体は世間に衝撃を与え、遺体の情報から武装が義務化されていた時代が注目された。不審なグループの目撃情報も少数ではあるが警察に寄せられる事になる。
それらの情報の中に、初日の出を浴びながら一人歩き去った者の姿は無かった。
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