護身感性:真顕の達人
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居合わせる彼 ☆
「今日も雨か」
刀を差して傘を差し、雲透き眺めて出勤する。そんな日常。
いつも通りに歩みを進め、同じ時間を電車に揺られ、見慣れた景色を流し見る。
多くの悲鳴が聞こえる方向から突進してきた2人組の山刀が徐々に大きく見える。
マシェットの風切り音、刹那の血しぶき。予期しない自らの死を前に眼を見開く。
「うあぁ……!」
混沌とした感情から漏れ出た声を、倒れ伏した2人組は理解できなかった。
ようやく戻った日常。
その日の彼は取引先の重役の視察に同行し次に説明する内容を思案していた。
内外の関係者が周囲を忙しなく動き回る。
ある者は目的に視線を向け、ある者は話に耳を傾けた。
またある者は重役と意見交換し、その輪に入ってくる者も居る。
そして重役に気付いてもらうために伸ばされたであろう手を床に斬り落とした刀。
繋がっている自身の手と刀。転がり、赤に染まりゆくアイスピック。
呆然とそれらを見つめている彼の自覚は悲鳴によって呼び戻される。
見覚えのないスーツは無数の手を取り地に伏せた。悲鳴が止む。
飲みの席で楽しそうな仕事仲間たちに彼は言う。
「おいおい尾ひれが付いてるぞ。どちらも居合わせただけだって」
「本当の達人はこう、居ながら合わせて斬らずに制するとか聞いたよ」
「2人組の動機を知った時は法的手続きより疲れたな」
「怪我人も出てる話だろ。居直る気は無いんだ、もうこの辺にしておいてくれ」
どちらも通例に従い正当防衛となるも渋い顔を見せる彼に、同僚は助け舟を出す。
皆、飲み過ぎて遠慮がなくなっていた。居合の達人にリアル抜刀斎とまで。
困ったものだ。
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