僕の娘で数学を勉強中の漆洋が書いた議事録集

数学のうえもっちゃん

第1話 僕はきっと話の聞き手として優秀だろうに

~年度末~


 僕は今回のこと、つまり新一君が人混みに連れて行ったあの日をこう聞いている。

「そうです、ひかりは人混みが苦手だったんです。今度から気を付けないとな。私も最初はめまがしましたからね。でも、本当に、本当に、思い出の一枚になりましたね」

 新一は体のほてりあの日を思い出すと顔を赤らめた。

「んで、どこから話してくれんだ?新一君?」

 一役買ったみほちゃんや家庭教師の裕二君のように恐らく今回のことを聞きたがっている人は多い。僕はわざとらしく口を動かす。

「そうですね。まずはどうやって誘ったのかから話しますか?」

「まあ、詳細に聞けるのなら聞いてみようじゃないか」

「いやー聞いちゃいますか?なんかむずがゆくなってきました。えへへ」

「そんなことを言われると聞いているこっちが恥ずかしくなりそうだ」

 ただ、ここに転校ばかりの新一ならこんなに笑えなかった。こんな決断できなかった。こんなに早くあの子の心を開かせることもなかった。大きくなったな、新一。だったらその成長の証に付き合おうじゃないか。

「楽しみだよ!早く話してよ!新一お兄ちゃん!」

「まあまあ、落ち着いて漆洋ちゃん」娘の漆洋は新一の袖を引っ張った。

「新一君、そうやって、うちの娘をとるつもりかい?」

「えー、そんなこと言わないで、聞いてくださいよ。そしたら、実は恥ずかしいのでこの話はするつもりなかったんですがおまけです!どうしてみほさんの新居の鍵を持っていたかの理由から話しますね!」

 前言撤回だ。いい決断なんてできてやしない。こんな僕の挑発に簡単に引っかかる。まだまだだ。しかし、これが僕の、はとこ新一君の優しさだ。良さだ。

 夜がちょっとだけ深くなった。

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