初めての日
鹿島輪
ビニール傘
君が告白してくれてから3ヵ月。
手を繋いで歩くのにも大分慣れてきた。
ついこの間まではぎこちなかったキスも、お互い、ちょっと上手くなってきた気がした。
いつか旅行に行きたいなぁ、って言った私。
「行っちゃおうか。」
君は思い切って海辺の宿を予約してくれた。
私たちは改札をでた。
「はいっ。」
君が笑顔で手を差し出した。
人通りが多いところだった。
ちょっと恥ずかしくて、はにかみながら手を握り返した。
一日中遊んだから、足が重たくなってきていた。
階段を一段降りるたびに、疲れてきているのを感じた。
駅の外では、雨が降り始めていた。
冷たい風が、スカートの下から吹き込んできた。
君は、辺りをきょろきょろ見渡した。
「どうしたの?」
「傘、売ってるとこ、ないかなって。」
私は折り畳み傘を出そうとした。
「これ、着といて。」
君が上着を羽織らせながら言ってくれた。
私は傘を出さなかった。
100mくらい先に、青と白のマークが見えた。
君と手を繋いで、向かった。
店内に入ると、君はまずビニール傘を買った。
一番安いやつじゃなくって、大きめのやつだった。
「…あのさ」
「どうしたの?」
君は、私の手を引いて、ハンカチや生理用品の近くに連れて行った。
君は、手を繋いだまましゃがんだ。
私もつられてしゃがんだ。
「どれが、いい?」
君が、たくさんの箱を指差して言った。
ほっぺたが赤くなっていた。
多分、私のほっぺたも赤かった。
どれがいいかな。
私も買うのが初めてだった。
君も初めてだった。
「これ、かな。」
一番可愛いリラックマのやつを手渡した。
君は、わかった、と言って立ち上がった。
君がお会計を済ませる間、なんとなく一歩下がって待っていた。
耳まで真っ赤だった。
「行こうか。」
私たちは外に出た。
君がビニール傘を開いた。
「一緒に入ろう?」
私は、小さくうなずいて、入った。
君が、私の腰に軽く手を添えた。
暖かかった。
とても歩きやすかった。
ビニール傘に、幾つもの雨粒が光っていた。
初めての日 鹿島輪 @marurinrin
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