第89話 馬車への道のり
造車所に向かう道中。
「蓮斗さん、馬は如何でしたか?」
「あぁ。荷車を用意出来れば売ってくれるって」
「流石ですわ、蓮斗さん!」
「ま、運が良かったよ。そう言えば、さっきのチェスだよね?」
レティシアが勝利したゲームについて質問をしてみる。
「チェスとは何でしょうか?」
「あれ……さっきのゲームなんだけど?」
「あぁ……あれは国盗りウォーゲームと言う物ですわ」
何だそれ? チェスっぽいけどなぁ。
「その昔、転移者が広めたらしいですわ」
あ、それなら少し納得だ。
「リーちゃん、何処行ったのかなー?」
「
「あたいも国ウォーを見てたから分からなーい」
国ウォー……国盗りウォーゲームの略だろうけど言い難いな。そして、凄いネーミングセンス。
「見えたのじゃ」
「あれが、造車所?」
一見、普通の工場だ。
「中に入ってみよう」
紹介状を持っているレティシアが先頭で工場の中へと入っていく。
「ごめんくださいまし」
「ん、誰だ?」
少し偏屈そうな髭の親父が出てきた。
レティシアは紹介状を見せ、馬車の荷車が欲しい旨を説明。
「分かった、こっちへ来い」
俺達は髭の親父に案内され、倉庫の様な場所に連れてこられた。
「おぉ……凄いな」
そこには完成された荷車が十台ほど置いてあり、どの荷車も独自の特徴を持っていた。
「色んな種類が有りますわね。これの中から一台を選ぶ事になりますわ」
「クリス、ヴァージュ、荷車の中を見て皆で決めよ?」
「そうじゃの」
「あいあいー」
急に現れた二人の女の子に、髭の親父は口をあんぐりと開けて固まってしまった。
「一体……あんたら何者なんだ……」
「ははは……お構い無く……」
ま、普通ビックリするよな。
「まぁいい、決まったら呼んでくれ。扉の所に値札が付いてるから確認しろよ」
「分かった、呼びに行くよ」
さぁ、どれにしようか?
「出来れば、皆さんで横になれる位が良いですわね」
身長……俺とレティシアが同じくらい、若干レティシアが高いか。ヴァージュは俺より低くく、クリスは更に低い。
ちなみにリアーナはヴァージュと同じくらい。
「じゃ、レティシア寝てみて貰えるかな?」
「え……
「変な意味じゃなくて、長さを見たいからね」
レティシアは小言を言いながら横たわる。
「これは……狭いね。次行こう」
この調子で四台まで絞り込んだ。
「この中から選ぶか」
「蓮斗、この二台は荷台が広いのじゃ!」
「……」
洒落なのか? 真面目なのか? どっちだ?
「は…………偶々じゃ!」
「そ、そうか、はははは……」
確かに荷台が広い。備え付けの箱まで有るし、結構使えるかも知れない。
「よし、この二台で選ぼうか」
「そうですわね」
「あたい、こっちが良いー!」
「なんで?」
「天井にフック一杯が付いてるからー」
あ、なるほど。ランタンも掛けれるし、洗濯物も干せそうだ。
「こっちにしようか?」
全員納得し、荷車を手に入れる事に成功。
白金貨八枚、約八百万円か……高いなー。
荷車は街を出るまでの間、預かって貰う様にお願いした。
別途に預り金が発生する事もなく、俺達は安心して宿屋に帰る事にした。
「あ、馬……レティシアとヴァージュは先に戻ってて」
「分かりましたわ」
「あーい!」
俺は小屋に行き、馬を一頭購入した。
こっちも預かって貰うのだが、一日銅貨五枚を要求された。荷車と違って餌代とか掛かるもんね。
「宿屋に戻るか」
「そうじゃの」
で、宿屋前……また死体が。
「リアーナ、起きろって!」
「ふぇ…………何か?」
今、絶対寝てただろ……。
魔刻の腕輪は午後五時を指していた。
「何か? じゃないよ、また寝てたろ?」
「失礼な……ウチは瞑想してただけ」
「はいはい。ご飯食べに行かない?」
「行く行くー!」
「お主の主人は現金じゃの?」
「面目無い……」
部屋で待っていたレティシア、ヴァージュと合流し、夕食を食べに繁華街へと繰り出す。
「今日は俺の奢りだから、好きな物を食べてね」
皆、喜んでいるが、一際喜んでいるのはリアーナだ。
「ウチねぇウチねぇ、アレ食べたい!」
あれは……豚らしき獣の丸焼きか。
「儂は酒が有れば何処でも良いのじゃ」
「我輩も剣殿……クリス殿と一緒だ」
「レティシアとヴァージュは?」
「あたいも肉ー!」
「最近、肉を摂り過ぎな気がしますわ……」
レティシアは乗り気じゃないな。
「レーちゃん、あれはコラーゲンだよ!」
「コラーゲン?」
「お肌がプルプルになるよー!」
「な、なんですって!? 蓮斗さん、あちらで!」
「は、はい」
コラーゲンって単語は同じなのか。
美味しい物を食べて、明日から警備紛いの事をしなきゃだな。
「「「かんぱーい!」」」
さて、地獄の宴……夕食のスタートだ。
「旨いのう! 良い酒じゃ!」
「確かに……我輩も気に入ったぞ」
剣と杖の人は酒飲みだな……他の武器もそうなのかな?
ん? リアーナまでがぶ飲みかよ。
「リアーナの世界では、お酒は幾つから飲めるの?」
「ウチの世界には、そんなの無いよ?」
えぇ……飲んでない方が変に感じるな。
「蓮斗様も飲んで飲んでー!」
「あ、あぁ……」
「蓮斗さん、お水ですわ」
「ありがと、レティシアは優しいな」
「え……そ、そんな……へへ……えへへ……」
しまった! 思わず……。
「馬鹿じゃのう……」
「レティシア殿は、偶に遠くに行くのだな」
「レーちゃんの妄想力は凄いよー!」
「不潔ね……」
「リアーナだって瞑想力? 凄いじゃん」
「ほぅ……ウチに喧嘩売ってるのかなぁ?」
「今日のお代は誰持ちだったかなぁ?」
「くっ……美味しく頂いてます」
「おぅ!」
勝った!
今宵も酔っぱらいを量産し、宿屋で爆睡となった。
馬車に乗るの楽しみだな。
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