第83話 宿屋を探せ!

 あれから数日、何事も無く進む。

 煙は依然として立ち上っているのが見える。


「妙じゃの……」

「え?」


 突然のクリスの言葉に少し驚く。


「あの煙じゃ。こんなに消えぬものかの?」


 あぁ、煙ね……確かに。意図的に出しているのか? 狼煙のろしの様なものなのか?


「何かを伝える為かな?」

「そうかも知れんのう」


 ま、行ってみれば分かる筈だ。

 それにしても、この世界は移動が不便だ……電車とか自転車って凄い物だったんだな。

 あれ? 自転車なら作れないかな?


「はっ!」


 パカラン、パカランと馬に乗った人が、俺達には目もくれず走り去って行った。

 馬車が有れば楽だな……。


「王都に着いたら馬車を探さない?」

「良い考えですわね」

「誰が手綱を取るの? ウチは嫌だよ」

「それは……蓮斗さんとわたくしが一緒に……」

「手綱は普通一人じゃない? 俺がやるよ」

「そ、そんな……初めての共同作業が……」


 え……何でレティシア落ち込んでるの?


「本当、君の仲間は面白いね」

「良く分からないんだけど?」

「まぁ良いよ」


 落ち込むレティシアを横目にリアーナはニヤニヤしていた。


 昼食を挟んで歩き続けると、遂に王都が見えてきた。


「見えましたわ!」


 高い壁……街は全く見えないが、恐らく街を取り囲んでいるのだろう。しかし、城の上部は見る事が出来る。所謂いわゆる、城郭都市か。

 門の前には、十人近くの兵が見張りをしている様だ。


「兵が多いな」

「流石、王都ですわね」

「君達、早く入ろうよ」

「そうだね」


 門で身分証の確認を済ませ、報告書を持参した事を伝える。

 報告書を受け付けてくれる管理者が居るらしいのだが、今日は非番で不在らしい。

 明日、改めて伺って欲しいとの事で、管理者の居る場所の地図を貰った。

 てな訳で、今日は観光になるな。

 いよいよ街の中へ……高い建物が多いなぁ、都会だな!


「蓮斗、あまり上ばかり見るでない。恥ずかしいじゃろ」

「あ、ごめん。思わず……ね? それよりも宿を探さなきゃ」


 街の入口近辺の宿は全滅。俺達は宿を探す為、街の中心部に向かった。


「ここも駄目か……」

「君達、いつもこんな感じで宿を探してるの?」

「ん? そうだよ?」

「宿の人に紹介して貰えば良いのに……」

「なっ……」

 

 そ、そうだよね。今回は特に人数が多いし。

 俺、クリス、レティシア、ヴァージュ、リアーナ……それとラーズの六人だ。

 早速、断られた宿屋に戻って話をすると、直ぐに紹介先が見付かった。


「ほらね?」

「あぁ。ありがとね、リアーナ」

「どういたしまして」

「たださ……」

「なに?」

「一部屋しか空いてなかった……」

「はぁ!? 六人一部屋? まったく……まぁいいわ。で、何処なのよ?」

「西地区の方」

「じゃあ、行きましょ」


 紹介された宿屋に着く。門構えは意外と普通の宿屋だな。


「いらっしゃい! あんた達がイリヤが言ってた人達かい?」


 この街の宿屋は、全て宿屋ギルドに加入しており、魔力通信を利用したネットワークで繋がっているらしい。

 代金を支払い、部屋に入るなりリアーナが叫ぶ。


「狭いじゃない!」

「ここしか無かったんだよ。お金も俺が持つから勘弁してくれ」

「ま、そう言う事なら」

「贅沢な方ですわね……」

「何か言いました?」

「いえ、何も言っておりませんわ」

「杖の小娘、お主……金を持っておらんな?」


 リアーナはビクッと反応し、クリスの方へゆっくりと視線を合わす。


「な、何故分かったの?」

「言動じゃ」

「蓮斗くん、それ……恐ろしい剣よ」

「それとは何じゃ!」

「ご、ごめんなさい」


 リアーナもクリスの前では形無しだな。


「じゃ、夕食まで自由行動にしよっか……リアーナは時計を持ってる?」

「うん、持ってる」

「レティシアとヴァージュは無いから……買いに行くか。あ、魔刻の腕輪ね」

「有り難う御座います!」

「やったー!」


 また、ヴァージュが行方不明になったら困るからね。


「蓮斗くん、あなた……お金持ち?」

「お金持ちじゃないけど、それなりに持ってるよ?」

「見直したわ」

「そ、そう? ありがと」


 そんな事で見直すんだなぁ。

 今は三時。リアーナ達とは七時に宿屋前で合流の約束をしたので、それまでの時間は……買い物かな。


「じゃ、時計……魔刻の腕輪を買いに行こっか」


 少し歩くと……有った、魔刻専門店!


「あんまり高くないやつね?」

「分かりましたわ!」

「りょーかーい!」


 ところで、魔刻の腕輪って高いのかな?


「蓮斗さん、これなんて如何でしょう?」

「良いんじゃない?」


 金貨一枚か……高いな……でも、まぁそんなところだよね。

 後はヴァージュを待つだけか。


「クリスは要るかい?」

「儂は要らんのじゃ。蓮斗が常におるからの」

「ま、そうだよね」


 お、ヴァージュが手を振って呼んでるな、やっと決まったのかな?


「蓮斗様! この魔刻ほしーい!」


 んと……ヤレックス、白金貨三枚!?


「却下!」

「えー!」

「ヴァージュ、もう少し遠慮なさい!」


 この調子でヴァージュが腕時計を決めるのに、一時間と言う時間を使ってしまった。




 リアーナはクリスに弱いんだな。

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