第79話 理由無き戦い

「う……俺……?」

「気が付きましたわ!」

「蓮斗様、大丈夫?」


 ここは……木陰か。確か鼻血を出して……倒れたのか?

 それにしても、柔らかい枕。触ると柔らかさが更に……これは、まさか……ひ、ざ、ま、く、ら!?


「あれ?」


 目を開けると、二人とも立って俺を見てる……て、事はクリスなのか?

 直ぐに頭の下を確認!


「あ、それはスライムの死体ですわ」

「えぇ!?」

「以前、魔具店で購入しました、形状記憶ポーションと裁縫を駆使して作ってみましたわ!」

「へ、へぇ……凄いね……」

「あら? お気に召しませんでしたか?」

「いや、とっても柔らかくて良かったよ。ありがと……」

「どういたしまして! 消滅しそうなスライムを、苦労して捕まえた甲斐が有りましたわ!」


 まさかのスライムかよ。


〔鑑定に成功しました〕

〔スライムの枕:安眠+1〕


 へぇ……意外。ひょっとしたら売れるんじゃない?


「くっくっ……不満そうじゃの?」

「そ、そんな事は無いよ!」


 クリスのやつ、相変わらず鋭いな……。


「四つ作りましたわ!」

「レーちゃん凄いね! 四人でお揃いだねー!」

「レティシアは、料理も裁縫も出来るんだね」

「はい! 優良物件ですわ! 蓮斗さん、如何ですか?」

「優良物件?」

「な、何でも無いですわ……」


 ん? 良く分からないや。


「馬鹿じゃのう……」

「くっ……」

「まぁまぁレーちゃん、次のチャンスだよ?」

「有り難う、頑張りますわ」

「あたいも頑張るよー!」


 何の話だろ? 家かな?


「鈍い男じゃの」

「え?」

「何でも無いのじゃ」

「よく分からないけど行こうか」


 再び、王都を目指して前進だ……何だあれ?

 前方で煙が昇っている。


「煙ですわね」

「遠くて分からないな」

「少し急ぎましょうか?」

「そうだね」


 こう暑いと走るのはキツいので、少しだけ早めに歩いて煙の方へと向かう。

 元陸上部としては競歩を思い出すな。

 一時間ほど歩いたのだが……。


「ぜぇ、ぜぇ……」

「蓮斗さん、大丈夫ですか?」

「ご、ごめん。休憩で……」

「だらしないのう……」


 レティシアの体力が有り過ぎなんだよ……。

 でも、ここまで歩いたのに煙はまだまだ先、かなり遠いんじゃないか?

 

「大分、遠いね?」

「ですわね……一日で着く気がしませんわ」


 と言う訳で、普通に歩く事になった。


「あの煙、まさか王都って事は無いよね?」

「それは無いじゃろ。あの大きさの煙で王都じゃとしたら、かなりの大規模になる筈じゃ」


 そうだよね、要らぬ心配ってやつか。


「戦争なら別じゃが」


 えっ……可能性無くは無いじゃん……。

 急ぐに越したことは無いけど、休憩はしっかり取ろう。


「お昼も過ぎてますし、軽い物でも食べましょうか?」

「そうしよっか」

「あたいもパン食べるー!」

 

 時間は三時、おやつの時間だな。

 軽く食事を済ませ、さぁ出発……ん? あれは……人?

 俺達の後方から、真っ白いローブに身を包んだ人が歩いてくる。


「あの人もトメオから来たのかな?」

「そうなりますわね」


 白いローブって目立つなぁ。

 杖を突きながら、ゆっくりと歩いてくる。


「待ってみるか」

「同じ方向でしたら、同行した方が良いかも知れませんわ」

「そうだね。そうしよっか」

 

 この道を通るって事は、王都へ向かう可能性が高いもんね。


「こんにちは!」

「え? はぁ……こんにちは」


 あら……ノリが悪い。


「王都に行くのかな?」

「そうですけど?」

「俺達も王都に向かっている最中なんだ。一人は危険だし一緒に行かない?」

「え……」

 

 むっちゃ警戒されてる。


「あれ……君達二人じゃないね?」


 ヴァージュの事か?


「こんちわー!」

「う……影人かげびとですか。もう一人いない?」

「何で分かったの?」

「人数感知のスキルを持ってますからね。でも一つは不確定だったから」

「それは儂じゃ」

「インテリジェンスソード?」

「そうじゃ」


 驚かずに抵抗無く言う人は珍しい。


「ほう……剣か」


 え……今まで話していた声と違う? ローブの人は高い声、でも今の声は低い。

 ま、まさか、その杖……。


「インテリジェンススタッフです」

「て事は転移者!?」

「そうなりますね」


 こんな所で杖の転移者と会えるとは!


「俺は……」

「勝負!」


 ローブの人は、杖を構えて言い放った。


「な、なんで!?」


 シウオの町長は、今までの剣と杖の転移者は人の味方って言ってたのに。


「ウチの名前はリアーナ、勝負!」


 杖の転移者はフードを外す。

 透き通った白い肌に紫の瞳、長い髪は後ろで纏めている綺麗な……女の子だったのか。


「俺の名は蓮斗。こんな勝負に意味なんか有るのかよ!?」

「それはウチが決める。行くよ、ラーズ!」

「心得た!」

「レティシアとヴァージュは手を出さないで! 行くぞ、クリス!」

「承知じゃ!」


 杖の転移者と戦う事になってしまった。




 どうして、こんな事に。

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