第75話 ナーフ戦!

「お前ら全員死ぬがいい!」

「やだよー!」


 いつも元気ですね、ヴァージュさん。

 さて、揺さぶってみるか。


「ナーフ!」


 女戦士は明らかに動揺している……だから何だと言われれば、それまでだけども。


「何故、私の名を知っている?」

「ナーフ、少し話をしないか?」


 この沈黙が……何て言ってくるかな?


「時間稼ぎ? まぁ良いだろう。冥土の土産ってやつだな」


 お、ラッキー!


「この強化魔術に時間切れは無いからねぇ」


 時間切れが無い? 一生って事か? それよりも……。


「ナーフ、どうして西門で叫んだんだ?」

「人の名を気安く……何なんだお前は……」


 ぶつぶつと独り言を呟くが、意外にも教えてくれた。


「西門で叫べば他の門に逃げるのが普通。そう言う時は大抵、反対側の東門に逃げる。そうすれば、沢山殺せるだろう?」


 そう言う事か。


「何故、殺したいんだ?」

「殺せば殺すだけ強くなれるからねぇ」


 そんな理由で!? 怒りを顔に出さない様にしないと……。


「魔術結社の関係者なのか?」

「良く知ってるねぇ。あの方は最高だよ! お前も入るかい?」


 こ、これは……少しでも情報を……。


「話を聞いてからだな」

「ふーん……興味は有るんだねぇ」

「普通の人間を洗脳とかするのか?」

「有るねぇ。あの方の洗脳魔術は激しい痛みを伴うのさ。人を殺すと少し痛みが和らぐ。自殺も出来ない様にされててねぇ、殺し続けるか殺して貰うしか無いんだよねぇ」


 だから、道中で襲ってきたローブの男は死に際にお礼を言ったのか。


「洗脳して得は有るのか?」

「洗脳者が死ぬと、その洗脳者が殺した人数分、あの方が強くなるのさ」

「それも強化魔術の一つって事か?」

「そうだねぇ。普通の信仰者は、死ぬ寸前に命を生け贄にして、他人へ強さを譲渡する魔術を使う。さっきみたいにねぇ」


 うん、良く分からん。


「つまり、殺人を繰り返す事で強くなる?」

「ま、正解だねぇ」

「もし、ナーフが死んだら?」

「強化された私の力ごと、あの方が強くなるねぇ。私の死にも意味が有る訳だよ、素晴らしいでしょう?」


 その手の死の意味は、好きになれないな……。


「どうだい? 入りたくなった?」

「因みに、あの方って誰?」

「……お喋りはこれくらいだねぇ」


 結構聞けた! 俺的には十分だな。と言うより、随分と教えてくれた気がする。


「残念だけど入らないよ」


 ん? ナーフがお腹を押さえてる?


「……くっくっ……はっはっはっ! もし入るって言ったら、入信魔術を掛けてから速攻で殺して、私がパワーアップ! って筋書きだったんだけどねぇ」


 だから長話に付き合ったのか……そして、最初から殺す気満々だったって事か。

 

「そろそろ……殺そっかねぇ?」


 何だ? 左手に杖……いや、盾? 金属製の盾付きの杖か? ま、そんなのを持ってるな。

 右手にはショートソードか。


「クリス、一応真空を……」

「うむ……」


 魔術を使われる前に動くか。


「行くぞ! 縮レヴ!」

「何だろねぇ……返り討ちだねぇ」


 俺は縮地術で突っ込む。


「うりゃ!」

「クリスの名に於いて命ず、我に選ばれし風の精霊よ、彼の場所より退け」

「たぁ!」


 俺の攻撃はショートソードで受け止められ、レティシアの攻撃は盾で阻まれた。


「くっ……耐えおった!」


 クリスの真空魔法はレジスト……ヴァージュの攻撃は……。


「えーい!」

「来たか影人かげびと!」


 ヴァージュの攻撃はナーフに当たる瞬間、弾かれて吹っ飛ばされてしまった。


「わ! 痛たた……」

「大丈夫か、ヴァージュ!?」

「だ、大丈夫、腰を少し打っただけ。でも蓮斗様との夜の営みがー!」


 それだけの減らず口を叩ければ大丈夫だな。


「私がお前を相手に対策をとらない訳が無いだろう? 私への背後からの攻撃は無意味だねぇ」


 背後だけは駄目って事か……。


「それにしても、この男の何処が良いのかねぇ?」


 うっ……何かすみません……。


「貴女は言ってはいけない事を言いましたわ……」

「レーちゃん、珍しく意見一致だね……」


 ん? レティシアさん? ヴァージュさん?


「はっはっはっ! そんなに惚れてるかねぇ」


 二人とも顔が怖いよ……何か禍々まがまがしいオーラが見えるような……。


「行きますわ!」

「あいよー!」

「ちょっ、二人とも!?」


 レティシアは左、ヴァージュは右に旋回しながら、ナーフに襲い掛かる。


「喰らいなさい! 愛の剣技、華輪連擊!」


 レティシアはショートソードに対して、高速連撃を繰り出す……愛の?


「光の精霊よ、我が敵を無数の光で包み込め! 光の幻霧!」


 ヴァージュの放った魔法が、ナーフの体だけを包み込む。


「あれは?」

「相手の命中率を下げる魔法じゃの。しかも効いておる、やるのう影の小娘」

「ヴァージュって魔法使えるんだ?」

「何を言っておるのじゃ? 一度、寝床で結界魔法を使ったじゃろ?」

「あ……でも、船を動かす時に出来ないって」

「お主が勝手に魔法を使えぬと勘違いして、それに気付いた影の小娘が、無理と言っただけじゃろ? 出来ないとは言って無いのじゃ」

「……俺の勘違い?」

「じゃの。それより、そろそろ準備するのじゃ」

 

 ひたすらナーフに攻撃の手を緩めないレティシア。そこにヴァージュが更に追い討ちを掛ける。


「剣技、重圧の双刃!」


 ナーフはガッチリと盾で防ぐが、ヴァージュの剣圧に耐えきれ無さそうだ。

 今だ! 俺は縮地術で一気に距離を詰める。


「ぐがぁ!」


 俺の剣はナーフの胸部を捉えた!




 ヴァージュに騙された感が……。

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