第26話 バトル、そしてバトル
ローブを着た男は、少し笑いながら話し出した。
「漸く腕を捲ったか」
子供は、明らかに怯えていた。余程、怖い存在なんだろう。
「もう不要だな」
不要? どう言う事だ?
ローブを着た男は、右手を高く上げ、勢い良く振り下ろした。
「ぐがっ……」
子供は血を吹き出しながら、倒れ込んでしまった。
「何をするの!!」
レティシアは、怒りを露にする。
「不要だから、消したまでだが?」
「くっ……許せないですわ!」
「許せないなら、どうするのだ?」
不適な笑みを浮かべ、妙な構えを見せた。
「あの構えは何ですの?」
「何じゃ? 儂にも分からん」
「あれは……拳法?」
ローブを着た男は、一気に間合いを詰めてくる。俺は縮地術を使い、距離を取った。
すると、男はレティシアに向かう。
男は手に金属で出来た様な手袋を纏い、連続で突きを繰り出す。
レティシアは、何とか剣で受けながら捌く。
「厄介ですわね!」
「お褒めの言葉、ありがとよ!」
次の突きを出す瞬間、その腕を狙ってみる。
縮地術で接近した瞬間、男に距離を取られてしまった。
……早い!
「狙いは良かったが、残念だったな」
何なんだ、こいつ。看破だ。
〔看破に成功しました〕
〔名前:ザンバ 種族:人〕
〔レベル:33〕
〔H P:2849〕
〔その他:閲覧権限がありません〕
「レベル33!?」
「ほう……お前、レベルが見れるのか?」
マズい……勝てる気がしないぞ……。
「蓮斗、こんな時に何じゃが、拳法とは何じゃ?」
え、今、その質問!?
「クリス、後でゆっくりね!」
「後で、と言う事は、此奴に勝つと言う事じゃな」
「そ、そうだね」
なるほど、どの道「後で」と言うのを見越して聞いたのか。そして、諦めないように元気付けてくれたんだね。
「俺に勝つ? 無駄だね! お前達は、ここで死ぬんだよ!」
「くっ……」
「そういや、お前……何故、拳法を知っている? これは、あの方しか知らない筈だ」
あの方? 誰の事か分からないが、転移者の称号の文字も無いし、この世界の住人なのは間違いないだろう。
「まぁいい。そろそろお別れだ」
男は、一気にレティシアとの間合いを詰め、また、突きを出したのだが……
「遅いですわ!」
突きの速度が遅く、レティシアは簡単に躱し、男に数回斬り付けた。
「ぐはっ……何だこれは!」
クリスの遅延魔法だ。話す速度は変わらないんだな。
ん? 何だ?
「我、命ず、契約に従い、彼の地へと
「蓮斗! 急ぐのじゃ!」
「遅い!」
俺は縮地術を使い接近し、直ぐ斬り付けたが……見事に空を斬った。
「消えた……?」
「限定転移魔術じゃ」
「限定?」
「予め決めた場所にしか、転移出来ない魔術じゃ。奴隷の腕輪への転移も、同じ理屈じゃの」
魔術か……。
離れた所では、レティシアが悲しそうに、子供の死体を見つめていた。
「レティシア……」
「大丈夫ですわ……守ってあげれなかったのが悔しくて……」
声を掛ける言葉が見つからない……。
俺はポンポンと、レティシアの肩を叩いて慰めた。
「気を取り直して行きましょう!」
レティシアは声を張る。無理をして、声を張ってるだろう。
俺は頷き、また道を歩きだした。
「どう思う?」
俺は、さっき転移したであろう男が気になっていた。
「え? あ……その……」
えっ! まさか、またそのくだり!?
「馬鹿小娘が、また発情しおって……」
「え…………な、な、な、何の話かしら!?」
レティシアさん、天然に認定しますね。
でも、元気が出たみたいで良かった。
大分、歩いただろうか。辺りが暗くなってきたので、今夜の野営地を探す。
「この辺は如何でしょう? 一面は岩壁ですので、注意を払う場所が限定されますわ。逃げ道も無くなりますが……」
うーん、確かに四面だとして、一面見なくて良いのは魅力的だけど、逃げ道も一面無いのか……。
ま、レティシアの結界アイテムが有るから、大丈夫だろう……恐らく。
「よし、ここにしようか」
「はい!」
今日の夕食は、レティシアのお手製だ。
作っている間は暇だったので、明日の朝食用に俺も作業開始。
「何を作っておるのだ?」
後ろから、クリスが覗き込んでいた。
「クリス、もう変身して良かったの? まだ夕食出来て無いよ?」
「変身……まぁよいわ。飯を作っている姿を見たら、我慢出来なくてな」
変身って、使わない言葉なのか。
「これは、明日のお楽しみ」
「儂は朝飯を食べないのじゃが……」
あ、そうだった……。
「クリスの分は、取って置いて夜に出すよ!」
「そうか。すまないの」
いえいえ、天使様の為ですから!
「出来ましたわ!」
さて、今日の夕食なーにっかなー?
「ボーライとムイランとハジリとナララキの、バドラン鍋ですわっ!」
「おー!」
「良いのう」
とは、言ったものの……サッパリ分からん。
この鍋と、パンとワインで食事になった。
「小娘、悔しいが旨いの」
「当然ですわっ! さ、蓮斗さんも!」
名前と具材が一致しないんだけど……でも、これは……白菜、大根、長ねぎ、えのき……。
「塩が効いてて旨い!」
「きゃ! 良かったですわ! さ、そのバドランも!」
やっぱり、この塊がメイン食材のバドランか……ゆっくりと口の中に入れ、味を確かめる。
弾力が有り、油っぽくも無く……え、これって……鶏肉じゃん! 鶏鍋だ!
「凄く美味しいよ! レティシア!」
「蓮斗さんが美味しいって……はぅ……」
これで、パンじゃなくて米ならなぁ……。
「蓮斗! 酒のお代わりじゃ!」
「私も飲みますわ!」
「勝負じゃ! 小娘!」
「受けて立ちますわっ! お子様には負けませんわっ!」
あ、今、地雷を踏んだ……?
「何じゃと! 儂は子供では無いわ! この、でか乳女!」
「な、何ですって! 貧相な胸だからって、妬んでるのかしら!?」
「ぐ……お主は何処に目を付けているのかの! この膨らみが見えぬのか!」
クリスは両手を胸に当て、胸を強調する。
わーい……いかん、鼻血が……。
二人は交互に一気飲みしだした。
飲む、罵倒、飲む、罵倒を繰り返し、この光景を一時間ほど見せられた後、俺は二人の介抱をする事になる。
俺は……飲めなくても良いや……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます