第14話 谷の主

 洞窟の入口、奥は何も見えない暗闇だ。

 男の子はいつの間にか消え、俺はまたクリスと二人になった。


「暗いね……」

「大丈夫じゃ。儂が光の魔法を常時発動する」

「それは便利だ!」

「天を司る光の精霊達よ、我が身に灯火を与えん」


 するとクリスの鞘が、うっすらと光に包まれた。


「暗闇ならこれで十分じゃろ」

「ありがとう!」


 俺達は洞窟の中に恐る恐る入って行った。


「辺りは魔法のお陰で見えるけど、奥は全然見えないね」

「そうじゃの。光量を上げるかの?」

「ちょっとだけ、お願い出来る?」

「うむ」


 鞘の光が増し、数メートル視界が広がった。


「うげ……」


 広がった視界の先は部屋の様になっており、人骨と思われるものが、あちこちに放置されていた。

 

「これ、どうしたんだろう?」

「分からぬが、骨の形はそのままじゃが衣類や装備品が無いの」


 確かに……ここで死んだのなら、衣類や所持品が残っていないと不自然だ。

 落ちている骨を踏まない様、縫う様に歩いたつもりだったが、パキッ、パキッと音がたってしまった。

 うわぁ……踏んじゃったかな……。

 

「蓮斗! 後ろじゃ!」


 へ? 後ろに振り返ると、人型の骨が襲い掛かろうとしていた。


「スケルトンじゃ!」


 知ってる名詞で良かった……じゃなくて、倒さないと!

 剣を構えているうちにスケルトンが増殖し、その数は十体を越えていた。


「何体いるんだよ……」

「安心せい、儂は魔法の武器と言ったじゃろう? 簡単に倒せるはずじゃ」

「オーケー! やってみる!」


 看破を使おう。

 一番手前のスケルトンに照準を合わせた。


〔看破に成功しました〕

〔名前:スケルトン 種族:アンデッド〕

〔レベル:8〕

〔その他:閲覧権限がありません〕


 結構レベルが高い……でも、武器を持ってないから楽勝かな!

 ところが、スケルトン達は落ちている長めの骨を、拾い上げて武器の様に装備しだした。


「えー。もうやるしかない!」


 幸いスケルトンのスピードは遅く、ほぼ一対一の状況で戦えた。

 一体に対し、四、五回斬り付けると倒れる。

 二十分くらいだろうか。二体同時にならない様、動きまくりながら斬って斬って斬りまくった。


「ぜぇ、ぜぇ……終わった?」

「のようじゃな」


 これでまた、最後にスケルトンキングみたいのが出たら厄介だったわ。

 ステータス新着が出たが、HPのゲージバーが減っている様に見えるので、恐らくレベルが上がって最大値が増えたのだろう。確認は後回しにして先に進む事にした。

 スケルトンの部屋を出ると通路の様になっており、先が暗闇で見えなくなっていた。


「これ、結構進まなきゃ駄目かな?」

「怖いのか蓮斗?」

「そんな事、全く無いよ!」


 嘘です……ちょっと怖いです……。

 でも、クリスに弱気は見せられない!


「え……?」

「扉じゃな」


 扉なんて人造物が何で有るんだろ? 少なくともヤバい感じしかしないけど。

 俺は扉に手を掛け引いてみた。あ、開いた。

 中に入ると結構広い部屋になっていた。踏み入れた足の場所には、魔法陣が書かれており、微かな光が漂っていた。


「む、罠じゃ……」

「え、何の?」

「窓を確認せい」


 言われたままログを確認すると、最後の一行は……。


〔ステータス異常〈封魔・LV?〉〕

 

「へ? 魔法が使えないとか?」

「正解じゃ……」


 こ、これって超ヤバいんですけど! 何かあっても、クリスの手助けは無しって事だよね?


「引き返そう!」

「それも無理のようじゃ……」


 後ろを見ると、入ったはずの扉が跡形も無く消え去っていた。


「行くしかないのう」

「だね……」


 不本意だけど、そのまま部屋の奥に進む……ん? あれは?

 部屋の一番奥の壁に魔法陣が描かれており、その魔法陣の中央には赤く光る石が埋め込まれていた。


「これをどうしろと?」

「あやつは封印と言っておったの。中央の魔石を破壊すれば、魔法陣の効果は無くなるじゃろ」

「そうか……じゃ!」


 俺は剣を大きく振りかぶり、魔石に斬り付けた。

 真っ二つに割れた魔石からは、強烈な光が漏れて辺りを包んだ。


「ふふふ、ありがとう!」


 光が消え去ると魔法陣も消えており、さっきの男の子が立っていた。


「封印が解けた?」

「そうだよ! お前らが封印を解いてくれたんだ! ありがとう!」

「いやいや、どういたしまして」


 俺は少し照れながら答えた。


「それじゃ、俺達は帰るかな」

「えー。もうちょっと遊んでいけば良いのに」

「いや、帰るわ。じゃあな」


 男の子に手を振り、先程の入口まで戻ると……壁のままであった。


「あれ、扉が出ない……」


 すると、後ろから声が聞こえる。


「だから、遊ぼうって言ってるじゃない? 遊び終わったら、この世から消えてると思うけどね!」


 薄気味悪い笑い声と共に、近づいてくる気配を感じた。




 もしかして俺、詰んだか?

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