第9話 もう一つの能力

 席に戻り、様子が変なクリス。

 顔を見ると、仄かに赤らめて……こ、これは……酔ってるな、うん、間違いない。

 いつの間にかテーブルには、お酒のような物が。


「お~蓮斗、お主も呑むがよい……ヒック……」

「俺は未成年だから、呑めないよ……」

「なんじゃと! 儂の酒が……」


 勢い良く立ち上がった瞬間、大きな男にぶつかってしまった。


「おう、嬢ちゃん! 何をしてくれるんだ!」

「なんじゃ、少し当たっただけじゃろ? 男の癖に心が狭いのう!」


 何で余計な事を言うかなー。


「お前らレベルは幾つだ!」

「知らぬわ!」


 もう正直に言って謝ろう……それが最善。


「……1です……」

「お前ら1の癖に随分と偉そうだな!」

「1だからなんじゃ? お主の方がレベルが高いと偉いのかの? 巨漢の割りに弱そうじゃし……」

「な、ん、だ、とー!」


 もう駄目だー、誰か助けて……。


「女でも容赦しないぞ!」


 大男がクリスに殴り掛かる。

 仕方ない、体を張るしかない!

 大男とクリスの間に割って入ろうとした瞬間、大男は数メートルほど吹っ飛んで壁に衝突、そのまま気絶してしまった。


「口程にも無いのじゃ」

「うわ……」


 俺は食堂の店主にお金を支払い、クリスを引っ張ってその場を立ち去った。


「無茶するなよ……」

「そうかの? 儂は楽しかったがの?」


 メモしておこう、クリスは酔っぱらうと面倒だ、と……。

 ふらふらのクリスに肩を貸しながら、やっと部屋まで辿りついた。


「すまんな、久しぶりの酒で楽しかったもんでの……」

「クリスが無事で良かったよ……」

「意外と優しいの……」


 二人で部屋に入り、俺は気付いてしまった。

 部屋にはベッドが一つだ……そう、一つなのだ!


「クリス、今日のところはもう寝よう!」

「そうじゃな……」


 俺は当たり前のように、ベッドの上に横たわる。


「蓮斗、お主はこっちじゃ。儂がベッドを使う」


 クリスは、ソファーを指差した。

 ですよねー。


「蓮斗、明日の朝から稽古をつけてやろう。剣に戻るまでじゃが」

「あぁ、ありがとう。宜しく頼むよ」

「うむ」


 そのまま就寝……って寝れない!

 だって横に美少女が寝てるんだよ?

 結局、あれこれ考え事をしているうちに、夜が明けてしまった。


「む、早起きだな、蓮斗」

「おはよう、クリス……」

「大丈夫か、目の下に隈が出来ておるぞ?」

「あぁ、ちょっとね……」


 顔を洗って朝食を済ませたあと、稽古に臨む事になった。


 町議会棟には中庭があり、クリスは一足先に着いて俺を待っていた。


「では、始めるかの」


 俺はクリスから木剣を渡された。

 何処でこんなの物を手に入れたのだろう?


「始める前に、儂の新たな能力をお主に行使する」


 新たな能力? あの時は何も言ってなかったけど、実は獲得してたのかな?


「これは一回しか使えぬようじゃ。断定出来ぬのじゃが、蓮斗にとっては良い事じゃぞ」


 お、期待しちゃって良いのかな?


「因みにどんな?」

「自身の所有者の能力を一部解放する、と書かれておる」

「どんな能力を?」

「知らぬ」

「…………」

「……ま、使ってみれば分かるじゃろ……」


 か、軽いっ、そして人体実験っぽい……。


「行くぞ、蓮斗!」


 こ、心の準備が……。


「我、剣の使者として命ず。我が、あ、あ…………主じゃと!?」


 ま、まさか……呪文的な文章に文句を言った?


「クリス……?」

「すまんな、取り乱したのじゃ……」


 そんなに俺が主だと嫌なのかな? 少し落ち込むわ。

 クリスは聞こえるか聞こえないかの小さな声で、呪文らしきものを唱えていた。

 ん? 唱え終わったのか、両手を俺に向かいかざすと、空中に緑色に輝く球が出現した。

 然程眩しくもない球は、ゆっくりと動き出して俺の胸の中に吸い込まれていった。


「びっくりした……終わったのかな?」

「うむ」

「お……」


 ステータスボードに新着が出ていた。


〔能力値の一部の閲覧権限を取得しました〕

〔スキル:看破を取得しました〕


 看破? 何だこれ? 看破の文字に意識を集中っと……。


〔看破:自分以外のステータスを確認できる〕


 超便利スキルきた!

 クリスで試してみるか……看破!


〔看破に失敗しました〕 


「へ?」

「なんじゃ?」

「いや、何でもないよ。ステータスの見れる箇所が増えたよ!」

「良かったの」


 何となく看破の事を隠してしまった。

 で、まだステータスも確認してないんだよね。


「では、始めるかの!」

「え、あ、は、始めよう!」

「何を動揺しておるのじゃ……」


 クリスが剣に戻るまで、みっちり稽古を受けた。




 クリスって結構容赦無いなぁ。

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