第171話 侵入者

「なぁ、なんで俺たちがこんなことしなくちゃなんねえんだよ」


壁のように積みあがった書類に、魔術師達は囲まれていた。


「強くなるためには休息も必要なんだ。お前らは俺らと違って貧弱だからな」


その直後ガンッという音と共にアストロは頭を押さえた。


「適当に眼使うな。やるなら修練場でだ。ま、今は無理やりにでも止めるがな」


クロイの言葉に一瞬魔力を高めたアルトだったが、すぐさま魔力を引っ込め書類作業に戻った。

ここで暴れれば戦ってはもらえるが、いつもと違い手加減も何もなしに、それこそ何もさせずに屈服させられるだけ。

何も得ることのできない戦いに意味はないと諦めた。

そんなこんな一か所に集められ作業に没頭させられている魔術師達を他所に、監視役として同じ部屋にいたクロイは異様な気配を感知した。


「これは…………客人、か」


敵意、害意はない。

街への、建物への攻撃もなければ、人への攻撃もない。

ただ一点、この場においてその存在は異質であった。

強い。

自分よりはずっと弱いが、それでも自分が育ててきた魔術師達と同等かそれ以上。

まず間違いなく普通の魔術師ではない。


「悪いが俺は用事が出来たから少し抜ける」


クロイはそう言って部屋を出ていく。

学園長であるノアの監視網にも引っかかっているはず。

となればその対応について話を聞くべきである。

けれどそれはクロイの判断ミスであった。

学園長室は学園内の監視のために一種の結界のようなものに覆われた部屋となっており、専用の魔術や神眼でもなければ、内から外、外から内を認識することはできない。

そして、書類作業に飽き飽きしている彼らが逃げないなんてこともなく。

何よりも、侵入者がまずかった。

なにせ彼は、旧知の魔術師であるのだから。

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