第170話 春
「クロイ、何を見ている?」
「桜だよ。ここで見られるとは思ってなかった。
あの夏から半年が経った。
生徒たちの学年が一つ上がり、入れ替わる。
「今年はいい生徒はいるのか?」
「皆等しく良い生徒だ。ただ、イフやアーテルのような生徒はいないな」
「そうか。ならまぁ良かったんじゃないか?今年までなら、リンたちが卒業するまでなら、くそったれどもの相手をする人員を増やす必要もないし、俺の修練についてくるために覚悟を決めたりもせずに済むんだから」
自分の教育がどれだけありえないものなのかはよく理解している。
よく理解しているが、それでも足りないような者が相手な以上妥協はできない。
「そうは言うがなぁ、個人の力ではなく皆の力を合わせるとはいっても、戦う以上は死人が出る。誰も死なせたくないなら個人個人の力を底上げしなくてはならない。そうなるとなぁ…………それにそもそも、儂はこの子らに誰かを殺してほしいなどとは到底思えない」
クロイから昨年の事件がなぜ起こったのか、その理由を聞いてからの半年間悩み続けた。
戦争は起きるし、国を護りたければ皆で戦わなければならない。
けれど、それでも、戦わせたくはない。
死んでほしくない。
傷ついてほしくない。
殺してほしくない。
傷つけてほしくない。
そんな痛みを知る必要はない。
「前から思ってたんだが、お前らおかしいよな」
クロイは流し目でノアを見る。
「三千年生きてる最強の王と、千年生きてる疑似不老不死の従者。多くの殺し合いを経験してるはずなのに、どうしようもないほどに優しすぎる」
無理にでも国民の自立を促さなければならないほどにまでなったのはその優しさが原因だと言外で告げ、クロイは学園の中庭から出ていった。
「わかっている。わかっていても、どうしようもないものなのだ」
何人もの死を見てきたからこそ、それはどうしようもないほどに耐えがたいものだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます