第149話 アルトvsルクス
トーナメント二回戦はアルトvsルクス。
万能の魔術師にして禁忌にその手を届かせた者と、最速の魔術師にして禁忌にその手をのばす者。
「転移はするのか?」
「ルクス先輩が相手ですからね、当然です」
「まったく、速度で圧倒してなお負けてるってのに、その速度に追いつこうってんだから、ほんとお前はふざけたやつだよ」
年齢はルクスの方が一つ上ではあるが、魔術師としての才覚で劣っていることはよく理解している。
故にルクスは笑う。
挑戦者としての戦いに心を躍らせていた。
開始の合図、炎が上がると、光がはじけ両者の位置は入れ替わる。
闘技場に残された雷の軌跡、合図と同時に最速で仕掛けたルクスの攻撃を、アルトは転移し避けた。
「…………今のは読んだか?」
「ええ、見てからでは遅いと思いましたから」
「そうか…………」
ルクスの身体が弾けるように光ると、次の瞬間闘技場を埋めるほどの範囲に一気に雷を放った。
魔力支配と結界によって一切の雷を通さず防ぐアルトは、すぐさま空へと転移する。雷を放った瞬間に、ルクスが追って殴りかかってくることを読んだ。
しかし転移してみれば、ルクスが蹴り上げるようにして雷を上空のアルトめがけて放っていた。
上空のアルトの転移を読み、地上に意識を集中させる。
アルトの出現と同時に雷で作り上げた鉤爪で身体を裂かんと距離を詰めた。
「導雷」
鉤爪は避けられるが、そのまま後方へと一直線に雷を放つ。
アルトの転移先を読んで用意していた攻撃、転移を確認したと同時に放った雷は、二度目の転移を以て避けられた。
しかし二度目の転移先もまた、ルクスは完全に読んでいる。
転移と同時に正面へと放たれた雷の斬撃は、結界によって防がれた。
「さすがに無理か」
アルトは地上へと転移した際、すでに後方に結界を用意していた。
ルクスの攻撃を転移で避ける際、もう一度転移をするために事前に転移先を指定し一度目の転移が完了すると同時に二度目の転移ができるように用意していた。
転移先を読んだとしても、転移するよりも前に攻撃を放ったところで意味がない。
転移するまで攻撃はしてくれない、故に最速の魔術師を超える速度で二度目の転移を行う必要があった。
そして、攻撃しなければ転移する必要もないためにルクスは二度の攻撃を行わなくてはならず、二度の攻撃を行った後では、まして背後へ攻撃を行った体勢では転移が間に合わないような速度で距離を詰めることはできず、距離を詰めるようなら転移をするだけ。
残された転移よりも早く攻撃を届かせる手段である遠距離攻撃も不完全な体勢からのものであれば防ぐこともできる。
そして何より、事前に用意した結界で防ぐことができるのなら、ルクスの攻撃に対処する必要はなく、その時間を攻撃に増すことができる。
魔力は一瞬で感知されることはルクスも理解している、しかし砂煙が舞い視界が遮られたこの瞬間であれば視覚から魔力支配へと注力する索敵方法を変えなければならないこの一瞬であれば、この一瞬があれば、転移されるよりも早くこの鉤爪を届かせることができるとそう考え一歩踏み出したが、アルトのナイフが一瞬先に周囲へ転移した。
逡巡。
周囲のナイフはルクスの動きよりも遅く、前方のナイフ以外は動き出したルクスに追いつくことはない。
しかし問題は前方のナイフ。
アルトに近付くならばナイフとは必ずぶつかる。
攻撃を行えたアルトが、自身の転移を用意していないとは到底思えない。
ナイフを避ける動きをしても、防ぐ動きをしても、ここから何らかの魔術を行使したのちに距離を詰めては間に合わない。
身体を逸らすようにしてどうにか致命傷を避けたとしても、少しでも体勢が崩れ速度が落ちれば間に合わない。
ならば致命傷を受けるとしても相打ち覚悟で駆け抜けた方がいい。
長い長い一瞬の後、ルクスは小さく笑った。
闘技場内全域に放った最初の雷、その際に用意した魔術。
事前に用意したものであれば、起動の合図一つで行使できる。
速度を落とすことなく、魔術を行使できる。
相手があるとであったからこそ、必ずこれだけはしておかなければと考えた対策。
ルクスの絶対の読み。
アルトは必ずどこかで、ナイフに頼る。
最初の雷で闘技場の壁に深く食い込んでいるのは小さな鉄杭。
鉄杭は、ルクスの意思によってある一つの魔術を発動させる。
電撃によって、磁力操作によって、鉄を、アルトが頼ると踏んだナイフを引き寄せる。
ルクスの正面に道が開く。
駆けるルクス、だが…………一手アルトが先を行った。
アルトは、駆けるルクスの真横に位置するナイフと、位置を瞬時に入れ替えた。
位置の入れ替えを行ったアルトはガイストが作り上げた最速の攻撃魔術を放った。
ルクス自身気づいてはいない。
しかしその右腕は、引き寄せられるようにアルトを狙った。
アルトよりも一瞬遅く、鉤爪は弾丸のように放たれる。
二つの魔弾は互いにかすめ、相手の手に着弾した。
貫通し腕を上る弾丸、いち早く気付いたアルトは、左腕を握る右手に力を籠め、体内に無理やり結界を張るとともに魔力支配によって食い止めた。
しかし反射だけで反撃を行ったルクスは、気付くのが遅れ対応が間に合わず、体の内側から爆ぜた。
「勝者、アルト‼」
勝者のコールと同時、無理やりに張った結界の影響でアルトの左腕が肘の辺りからぼとりと落ちた。
凄まじい痛みに、改めてクロイたちがどれだけ痛みがないよう攻撃しているのかを感じながら、完全に虚を突いた上に最速で攻撃をしてなお反撃された事実に打ちひしがれていた。
「まだ…………まだ、足りないな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます