第148話 ギフトvsイフ

トーナメント一回戦はギフト対イフ。

グリモワールに選ばれた者と選ばれるはずだった者の因縁の戦い。


「まだ完璧に使いこなせている自信がない。君と戦うには早すぎる」


「ではここで限界を超えてみてはどうですか。完成まで至らずとも、その心意気に免じて認めるかもしれませんよ」


「中途半端を許す君ではないだろう?もちろん正面から戦って、認めさせてみせよう」


どう攻めるのか、どう対処するのか、思考を巡らせながら意識を戦闘一色に塗り替えていくイフ。

対するギフトは微笑みの奥で静かな闘志を燃やしていた。

開始の合図、炎が上がると同時、ギフトは出現させたグリモワールは後方へと下げ、グリモワールから放たれた一振りの剣を逆手で掴み、空いている左手の指で剣の腹をなぞると順手に持ち替え斬り上げる。

剣は巨大な爆炎をイフに向けて放った。

そして流れるようにギフトはイフに向けて剣を放る。

背後で起きる爆発で時間を稼ぎ、ギフトは両手で円を描き、空中に陣を出現させた。

一つ目の剣で稼いだ時間が終わらないよう、グリモワールから出現させた複数の剣を、今度は陣を通してイフへと放つ。

放たれた剣は先の剣と同様に巨大な爆発を起こし、イフを防御に注力させ時間を稼ぐ。

ギフトはその間に両手を別々に動かし小さな陣を次々と描いては空中に配置していく。

一つの陣を自身の前に配置すると、五つの剣をその陣を通して放った。

陣を通ると同時に凄まじい加速をし真っ直ぐ飛来した五つの剣のうち四つをイフは防いだが、最後の一つによって防御は砕かれ、避けたイフの右手を斬った。

斬られた右手を握りしめ、さらに血を流すイフだが、流れ出る血はまるでそこに器でもあるかのように空中に留まる。

血液によって作り上げられた小さな球体を前方へと放るとイフは口にした。


「血戦魔術ファフニール」


血液でできた小さな球体は大きくなり、そしてその中から殻を破るようにして銀の鱗を持つ巨大な竜が出現した。

追撃の手を止めず放たれ続けた剣は竜の出現によって消失し、その後放たれた剣もまた、堅い竜の鱗を前に弾かれた。


「我が血に従えファフニール」


血の流れる右手を握りしめ竜へと向けた。

竜はその鋭く重い視線をイフに向けると苛立つように唸る。


「一度でも隙を見せてみろ、その時がお前の最期だ」


押しつぶすような声、イフは負けじと竜を睨む。


「下らん」


そう一言口にすると竜はギフトへと視線を戻し毒の息を吐いた。

闘技場を埋め尽くす毒の息はギフトもイフも関係なし。

両者すぐさま気づき防いだものの、一呼吸でも吸い込んでしまえばその瞬間に命が尽きる。

一切気の抜けない相手を前に、ギフトは攻略の糸口を発見した。

堅い鱗を貫き突き刺さる槍。

幾重にも重ねられた加速と硬質化の陣。

その中を通り抜けた槍は、堅い竜の鱗すら貫いた。

陣を組み替え、巨大化させていく。

グリモワールから次々と出現する槍は、一つの塊のように陣を通り抜け竜の胸に突き刺さった。


「冷静に、攻略法を探すだけ。どれだけ強い者が相手であったとしても、それは決して変わらない」


そういってギフトが指を鳴らすと、すべての槍が一斉に爆ぜた。

竜の身体を内側から破壊するように。

立ち上る煙、それを割いて現れた銀の鱗を纏った巨大な前足。

盾を出現させ、結界を張り、陣を描く。

それらすべてを打ち砕き、竜の前足はギフトの身体を轢くように弾き飛ばした。

煙の中、巨大な影は小さくなっていく。

霧が晴れるとそこには、胸から大量の血を流す一人の男が立っていた。


「油断した。慢心した。これが強者最大の弱点か。だが、一撃で仕留められなかった時点で貴様の死は決定している」


男は瓦礫に埋もれながらも息のあるギフトのもとへと近付いていく。

そしてその途中、ガクリと膝を落とした。

男の視線の先、膝をつき大きく肩で呼吸をするイフの姿がそこにはあった。


「死ぬ順番が、変わったな」


荒い呼吸でイフは答える。


「君を召還したのは失敗だったようだ。君では、私のことも先輩のことも殺せない」


イフは自身の胸に手を当て、握りしめる。

そして瓦礫に沈むギフトへと手を伸ばしタイミングを待つ。

転移と見まごう速度で現れた男が放つ蹴り、一切の狂いなきタイミングで、イフはギフトと位置を交換した。

目の前に迫る蹴り、咄嗟に上げた両腕で防いだものの、踏ん張りの一切効かない空中に放り出されギフトは再び壁に激突し瓦礫に振られる。


「小賢しい。煽っておいて、そんなに自分の番を先延ばしにしたいか」


蹴り飛ばしたギフトのことなど男にとってはどうでもいい。

殺す順番に拘りなどなかったが、今は別だとイフを見る。


「…………その脚は、油断と満身の証では?」


イフの言葉に自身の脚に目を向けた男は驚愕する。

ギフトを蹴った方の脚が切断されていた。


「一縷の望みにかけて先輩に蹴りをぶつけてはみましたが、これではやはり勝てそうにないですね」


イフの呟きなどもはや男の耳には入らない。

今はただ、自身の脚を切断したであろう者に対する怒りしかなかった。

視線を向けた先には、息を大きく荒げるギフトが立っている。


「上半身消し飛んだかと思いましたよ。兎も角、これは完全イフのミスですね」


満身創痍のギフトだが、男を見つめる目は実に冷たいものであった。


「自信は強者であると驕り、油断し、慢心していた貴方では。驕らず、油断せず、慢心しない、それこそが強者が強者たる所以であると知らない貴方では、それを知る者を殺すことなど到底出来ない」


地を蹴る男、転移と見まごう速度にもはや意味はない。


「私の勝ちです」


ギフトのもとを通り過ぎたのは細切れとなった男の身体であった。

肉体に突き刺さる極小サイズの無数の剣は、突如巨大化し男の身体を貫いたのだ。

その竜は紛れもなく強者であり、到底勝てる相手ではなかった。

だがしかし、その竜はどうしようもないほどに慢心していた。

自身が強者であるという慢心ゆえに、自身よりも弱いものに敗北することとなった。

その在り方の間違いに気づけたのは、予選での反省があったからこそ。

同じ間違いをしていたからこそ、強者を相手に勝利することができた。

トーナメントにおける勝敗は、イフの魔力が空となり戦闘続行が不可能と判断されたためにギフトの勝利。

グリモワール使いとしても、多種多様な組み合わせによってイフに認められ、第一回戦は終わった。

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