第141話 闘技大会第一ブロック

第一ブロックにはギフト。

闘技場の端、遠目からでも落ち着いていることがよくわかる。


「…………さすがに闘技大会には出てこないか」


規格外の天才たちの気配はない。

しかし、闘技大会に出場して来るのは総じて英雄を育てる第一学園の在校生および卒業生、そして魔術師を育てる第二学園の在校生および卒業生。

当然現在その実力から名を上げているギフトは狙われやすい。

構図は多対一に近いものとなる、しかしそれはギフトにとって非常に都合が良かった。

クロイが言っていたが同じ相手とばかり戦っていると変な癖がつく。

だからといって規格外の天才を想定した修練の相手などそういない。

しかし今、腕に自信のあるもの数百人が今目の前にいて、それら全てが自身を狙っている。

本来であれば多対一では一対一の修練足りえないが想定するのは規格外の天才、一対一では到底あり得ない攻撃すらも可能とする天才を想定しているのなら、この多対一は実に良い修練となるだろう。


「修練ならばできるだけ長くしていたいけど、より身になるのは短い時間でより多くを倒すこと。悪いけど、すぐに終わらせる。他よりは遅いだろうから許してくれ」


周りの視線が向けられる中、魔導書から薙刀を取り出す。

魔術も何も刻んでいない、ただ丈夫なだけの薙刀。

肉体強化を行うのは当然として、そんなことは第一学園でも習うこと。

魔術師であるはずのギフトが武器を用いた戦闘を選択したのは、他の者を格下に見てのハンデ戦と認識され一層他の出場者から意識を向けられた。

空気がぴり付くなか、試合開始の炎が上がった。

皆がギフトを狙い一斉に襲い掛かる。


良かった、予想通り統率は取れてない。

これなら読み辛い。


小さく笑みを浮かべると、薙刀を大きく振り払い近付いて来たものを全て吹き飛ばした。


真っ先に近付いてきたのはそれなりに腕に自身にある者、さすがに今の攻撃は防いで見せるか。

初めからわかってはいたけれど、決して余裕のある戦いじゃない。

なら。


ギフトは突然手に持つ薙刀を真っ直ぐに軽く上へと放ると両腕で柄を挟むようにして勢いよく回転させ薙刀を一気に加速させて背後に振り下ろした。

様子を窺っていた一人の剣士は振り下ろされる薙刀を防ぐことができず地面に倒れる。


薙刀は間合いを保ちながら戦う武器、しかし一瞬にして距離を詰める第一学園の生徒達を相手に間合いを保つ相当の難易度を要する。

数多くの武器の中からわざわざ薙刀を選ぶ者などそういない。

だからこそ、彼らは薙刀の対処に慣れていない。


「先手必勝。攻めていこう」


ギフトは自身の肉体を芯として長大な薙刀を回転させる。

間合いには誰も近づけず、攻めるタイミングをうかがう周囲の者の内の一人を選び、一歩踏み込み間合いを伸ばすと横薙ぎの一撃をぶつけた。

防ぐ剣士だが、勢いが乗り、全身の力が乗った一撃を防ぐことができず吹き飛ばされる。

顔を追上げた時、そこには無双するギフトの姿があった。

踏み込みの動きが小さく素早い、薙刀が伸びたと錯覚するほどに自然な体捌き。

誰も彼もが攻撃を防ぐが全て辛うじてである、一瞬でも二人目の行動が遅れれば追撃に倒れることとなる。

たとえ薙刀の位置から隙だと思い攻撃を仕掛けるも、柄をぶつけて弾き飛ばされる。

間合いの内側に安置無し、一斉に攻めたとしても全て蹴散らされるとそう思えるほどに圧倒的。

攻め入った者が防いだにも拘らず柄に持ちあげられるように宙に放られ、一瞬にして回転し、今度は刃の部分が襲う。

一切無駄のない洗練された動きに皆は見た、魔導書に選ばれただけではない、天才の片鱗を。


この調子なら余裕を以て勝利出来そうだ。

魔術師は距離を取ってこちらを狙っているけれど、武器を使った戦闘を重視している者達では私の魔力支配を解くことは出来ず、並の魔術師では私の魔力支配の中を通して私の元まで魔術を届かせることなど出来ない。

…………ありがたい、策を弄してくれるのなら、それだけ私は強くなれる。


周囲にいた者達が一斉に距離を取る。

あまりに自然な動きで間合いを詰めるギフトに反応できないのなら、反応できるような動きをしなければ詰められないだけの距離を取る。

今までと同じではギフトの攻撃は簡単に捌かれることになるだろう、だからギフトも戦い方を変える必要があった。

瞬時に薙刀を逆手に持ち替えると、勢いよく投げ放った。

狙いは一点、防ぐ武器を砕き、その胸に薙刀が突き刺さる。

地を蹴り一気に距離を詰め柄を握ると、挟むようにする二人の攻撃を薙刀を引き抜きながら後ろに下がり避け、薙刀を大きく回転させ二人の首を切り裂いた。

もうギフトは止まらない、突き進みながら次々と薙ぎ倒していく。

誰から倒すのが最適か、実力を測り位置を把握する、誰もがギフトと目が合い身震いした、圧倒的な実力差故に。

一人また一人とギフトに倒され残されたのはたった三人、そして一人が薙ぎ払いによって武器ごと砕かれ吹き飛ばされた。

薙刀を回転させ一切の勢いを殺さずにもう一人を同じように防御した武器を破壊し薙ぎ倒す。

そして流れるように数歩距離を詰め、最後の一歩でさらに大きく距離を詰めると、薙刀を勢いよく振り下ろした。

しかし防ごうと構えられた刀に触れるより早く薙刀は消失し、ギフトは身体を回転させ剣士の横をすり抜け背後に回るとナイフを首元に刺した。


「受け流して一太刀入れる。私に受ける術はなかったよ」


刀を使う者はいる。

けれどいざ対峙したとき違和感があった。

距離を詰める過程で、防ぐ際の構えが他の者とは違うことに気付いた。

この土壇場で頼る策か何かがこの者にはあると、そう考えさせられた。


油断はしていなかった。

それでも、まだ足りない。


「第一ブロック勝者、ギフト‼」


勝者のコールの裏で、ギフトは一人自分の未熟さに打ちひしがれていた。

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