第142話 闘技大会第二ブロック

第二ブロックにはアルト。

対抗戦においては禁忌魔術を扱い、当代最強の魔術師としてその名を国民に知らしめた。

しかし第一ブロックが既に終わり彼らの実力を皆がよく理解している。

選択肢は二つ、皆で協力して倒すか、避けてそれなりの結果を残すか。

そしてこの国の者達にとってそれは一択と同義、たとえ負けるとわかっていても、一度も戦わないなんて真似は出来ない。

皆の視線と戦意を向けられながら、アルトは一人一人出場者を見定めていた。

自分を止めるような相手はいるのか、居るとしたら倒す順番はどうするのか、思考しながら自身の魔力支配を完全なものへと近付けていく。

皆が静まり返り武器を構え、陣を描く準備をし、詠唱の為に気合を入れる。

開始の合図、その直前に突如膨れ上がった魔力に一瞬集中が途切れ、開始の合図と共に我に返り一斉に攻撃を仕掛けた。

狙われたアルトはというと、非情に落ち着いた様子で滑らかな動きで魔力を放った。

波の如く押し寄せる魔力に飛び掛かった者達は吹き飛ばされ、地上の者達は動きを止める。

たった一瞬、開始直前、ゆっくりと瞼を閉じて一呼吸入れ瞼を開ける。

その一瞬で膨大な魔力を触れられるほどに支配し、放出する準備を整えた。

放出された魔力は闘技場内を埋め尽くす。

アルトの完全に支配された魔力をたった一瞬で支配し返すような者はそういない。

故に勝負はほんの一瞬で終わった。


「…………爆ぜろ」


闘技場内で巨大な爆発が起きる。

それは闘技場内に充満した魔力を用い闘技場内全域を範囲としたアルトの魔術。

一人残らず、全てを一瞬にして倒すための一連の流れ。

完璧に決まったアルトの魔術だが、爆炎の中一人の少年が息を荒げ耐えていた。

全力の結界を以て耐えた少年だったが結界の外は炎の海。

それどころか、アルトが何かを掴み引っ張るような動きをすると炎が動き出し、今度は炎の波が少年を襲った。

炎は渦となり少年を包み込み、その頂点が一瞬輝いたかと思うと渦の中へ雷が落ちた。

突如炎が大きく動くと今度はアルトを包み込み、その背後に待機する。

アルトが見つめる先、黒煙の中からフロンテが現れた。


「完全に不意を突いたはずだぜ?」


「私が兄さんに警戒しないのはおかしい?」


「いいや、それこそ俺のことを一番警戒してくれると思ってる」


「ああそう」


笑うフロンテに炎を向かわせると、剣を手に取り少年へと距離を詰めた。


魔術に対する結界は素晴らしいが、物理攻撃への結界を同程度まで仕上げるにはまだ年月が足りない。

厄介なのが後に控えてる、悪いけど弱点を攻めさせてもらう。


大きく振りかぶって力任せに振り降ろす。

後方へと避ける少年には当たらず、硬い地面を砕く。

岩の一つを魔術を以て弾くと少年が咄嗟に防御した両腕を弾き飛ばす。

手に握る剣で隙だらけの首を切り落とした。

勝負がついたアルトはフロンテの時間稼ぎに向かわせた炎を呼び戻す。

炎はアルトの身体をすり抜ける様にして背後で止まる。

炎がすり抜けたアルトの身体には魔術礼装が装備されていた。


「なんだその服」


魔術礼装は燕尾服とハーフグローブ。

あまり見かけないどころか初めて見る装いにフロンテは不思議そうな顔をする。


「師匠の趣味。別に気にする必要はないです」


軽く答えて駆けだすアルト。

直線に炎を放ち視界を塞ぎ道とする。

相手すら包むほどに高く燃え上がる炎の中、アルトはフロンテを飛び越えた。

一瞬気を取られるフロンテだが、すぐさま炎の道へ視線を戻すと地面を踏み砕き、岩に触れると炎の中へ飛ばした。


「どうせ今のは囮だろ」


炎を切り開きながら突き進む岩はその先ですれすれで避けるアルトを炎の中に映した。

炎で形作り魔力で感知をすり抜ける囮だったがフロンテには読まれていたために本体のいる炎の中を攻撃される。

しかしアルトもやられっぱなしではない、過ぎ去っていく岩に手を伸ばし、指先を触れさせ支配を奪うと軌道を変える。

炎の道を飛び出して弧を描くようにフロンテへと迫った。

身体を逸らし避けるフロンテだが見上げた先には炎、咄嗟に身体を逸らすが左耳が焦げる。


「囮動かせるのか」


「魔力を込めてるんだから当然だろう」


地面に倒れるもすぐに跳び起きるフロンテだが、炎の道からアルトが蹴りかかってきた。

始まるのはアルト本体と炎の囮による二対一。

先読みによって無理やりにフロンテは戦闘を成り立たせるが、一手読み違え蹴り飛ばしたアルトの投げたナイフによって喉に傷を付けることになる。

しかし無理やりにでも引き剥がしたのは事実であり、その隙を突いて炎の囮を霧散させ一対一にまで持ち込んだ。

二人は見つめ合い呼吸を整えると同時に地を蹴り肉弾戦を始める。

肉体強化はアルトが上だが、圧倒的な読みによってアルトの攻撃を当然の如くフロンテは捌く。

フェイントにも引っかからず、腕を弾いたうえ上での攻撃にすら対応するフロンテを相手に苦戦を強いられる。

しかし突如フロンテの脚にナイフが刺さり流れが変わる。

頭が真っ白になり思考が濁流のように流れまとまらない。

明らかに隙ができたフロンテに次々と攻撃を叩きこむ。

防御が間に合わず腕を弾かれ、辛うじて魔術によって防御する胴体に連撃を喰らい弾かれる。

顔を上げると力強い蹴りを喰らう。

脚には力が入らず為す術なく蹴り飛ばされた。

転がりながらも起き上がろうとしたところを両腕を踏みつけるようにして押さえつけられる。


「忘れたかよ」


「忘れてませんよ」


手首を曲げ足に触れ、アルトを魔術によって飛ばそうとするが、天高くから落ちて来たナイフによって両手を貫かれそのまま地面に固定された。


「兄さん、私はもう、兄さんにも勝てる」


両手に溜め込まれたアルトの魔力が倒れるフロンテの頭部に落ち、爆ぜた。

フロンテの首から上は消し飛び、いま、勝者が決まった。


「第二ブロック勝者、アルト‼」


勝者のコールの裏で、不死身故にその勝利を邪魔しかねない男は頭部が再生しないようほんの少し再生しては潰されてを繰り返していた。

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