第139話 今後の予定

「もう帰るのか?」


イリスはローズを抱きかかえて立ち去ろうとする。


「まさか。アルバと会えるまではこの国に滞在するつもりだよ。せっかくの夏祭り、楽しんだ方がいいだろう?」


「お前は本当に、この国にいながら何もしないつもりなんだな」


「当然だろう。私はこの国において、他の誰よりも部外者なのだから」


国民たちは言わずもがな、アルバへのイタズラを行うアインス達は既にこの国の王である乃神からを受けている。

クロイもまた、この国の民たるアストロの護衛をアストロの父ゼウスから依頼されている。

イリスにとってこの国は弟子の故郷であるという接点こそあれど、動けるだけの理由がない。


「戦わないのはいいぜ、けど、なんか情報くらいくれないか?残念ながら俺は、壊す事しか出来ない馬鹿なんでな、情報収集も出来なければ作戦立案も下手くそ、ここは一つ頼むぜ、魔法使いさま」


「…………戦争の開始は二年後くらい」


「根拠は?」


「そこを終着点としている男がいるから」


その答えにクロイは舌打ちをして納得する。


「それなら、現状維持でも問題ないのか?」


アインスの下で得た情報、今目の前にいる彼らの状況、先を読み一つ一つ言葉にしていく。


「そうだねぇ…………イフ以外は今のままの修練で問題はない。けどイフは頑張らなきゃかな。少しばかり大きな試練が、彼の前に立ちふさがることになる。といっても、遅かれ早かれ他の者もそのレベルに至らなければならないがね」


視線をクロイに向け少し微笑む。


「無論、彼らを失望させることにはなるだろうから、誰を優先するかは考えておきたまえ。それじゃあ私は失礼するよ」


イリスはそう言って城から飛び降りてしまった。


…………誰を優先するかねぇ。

アインスのつまらなそうな溜息にはたいそうな価値がある。

だからといってこいつらが失望されるのは違う。

アインスに対する負の感情とこいつらに対する正の感情を天秤に掛けろってことだろうけど、数十年に一度レベルのアインスへの嫌がらせの機会、比べるまでもない。


「夏祭りには闘技大会があるらしいな。お前らの修行の成果を見せてやれ。そして来年には、今よりもずっと強くなったところを見せてやれ」


俺の恨みとこいつらは何の関係もない。

比べるまでもなく決まってる、巻き込むなんて答えはありえない。

こいつらは強くする。

アインスの予想を裏切るのなら、驚くほど強くして裏切ってやる。


「…………闘技大会って参加の申し込みが必要だったりするんじゃねぇか?」


ふとよぎった考え、頭の中で情報がぐるぐると回る。

夏祭りは今日だけ、夏祭り開始から既に多少の時間が経っている、国を挙げた祭りで参加者多数、時間が掛かるから早い内から…………。


「…………お前らこんなとこにいないでさっさと参加申し込みしてこい‼」


「待て待て、儂の方でやっておく」


「ああそっか、運営は学園か。じゃあよろしく頼む」


話もまとまりクロイは再び床に座る。

空気を張り詰めさせ街の監視に戻った。

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