第134話 これから

教職員を集めての料理教室にトーカとクロイの姿はない。

初めての料理に皆興奮し不思議な方向へと進んでいく。

創作料理に走り出した大人たちに頭を抱えるノアとメイガス。


「お前達何をやっている。レシピ通り作るのがまず何よりも大事なのだ」


「しかし学園長、我々は魔術師です。試さずにはいられないのですよ」


そう語る男性教師に呆れたようにため息を吐いた。


「まずは基本に忠実にだ。無論ここにいる者達は実に優秀で既に夏祭りで作る料理は完全に習得している。それはよく理解しているが、いまするべきは研究と発展ではない、計画を完遂することだ」


魔術師たちは我に返るように今を、そして先を見た。

夏祭りはもうすぐそこまで迫っている、研究しているだけの時間はない。

この短い期間ですべきなのは早くおいしい料理を提供するために料理の腕を上げるだけ。

そこにさえ注力していればいい。


「任せてください。国民全員をうならせるようなおいしい料理を作って見せます」


夏祭りは十万人の国民が参加する百年以上続く伝統のある祭りである。

毎年毎年国の端々にまでずらりと並んだ誰もいない屋台に次々と料理が出現していく。

そんなことは自分達には不可能だ。

けれど、料理は作れた。

あんな速度では無理だが、あんな量いっぺんになど無理だが、ここには多くの人がいて、その誰もが研鑽を積んだ魔術師である。

一人で数千人分、不可能な話ではない。

出来るだけ多くを、出来る限り早く、決して味を落とさずに作る。


「魔術の万能性、我々が生徒に示して見せましょう」


「それに今年頑張れば、来年からは料理を作れると知った者達が勝手に何か作ってるでしょうし、人手不足ともおさらばです」


確かに、この者達がすぐさま創作料理に走ったようにこの国の者達は皆一様に興味さえ持てばその熱量はすさまじいものとなる。

来年には、各屋台に国民が自由な料理を並べる事だろう…………味見は大変そうだが。


「メイガス、彼らを任せる」


「学園長は?」


「儂はちと忙しい。学園の事も、国の事も、それ以外もな」


一度創作料理に走った以上監視役は必要だろうとメイガスにその役目を頼み、答えになっていない答えを口にして修練場を後にした。


クロイ、トーカ、儂が知る者らはどうにも悪であるように感じられない。

闘技会もそうだ、あの戦いはこちらの実力に合わせるような戦い方。

上をいくことで勝つために限界を超えさせる、クロイを知っていたからこそ感じる、彼らは強く育てようとしているのではないのかと。

アーテルは強かった。

彼らにとってもその評価はきっと変わらないのだろう。

だからアーテルを誘拐した。

アーテルを成長させる必要はなく、それ以外の者に限界を超えさせるために。

であるなら彼らは何者か、そんなもの決まっている。

クロイがアストロを護るよう依頼されたのと同じように、彼らもまた依頼されたのだ、王に頼り切ったこの国を変えてくれと。

全くもって恥ずかしい話だ。

上が完全であったから、下が無能でも成り立ってしまった。


「自由には力がいる。今までの分まで頑張らねばだな」

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