第133話 集められた教職員
「教師諸君、今年の夏祭りは我々第二学園が開催する運びとなった。おぬしらがこの修練場に集められた理由はただ一つ。おぬしらには、屋台で配る食事を作ってもらう」
ノアの話を聞いてまず最初に頭に浮かんだのは疑問符であった。
理解が出来なかった。
「食事というのはあの、焼きそばやタコ焼きといったものでしょうか?」
「そうだ」
「……………………作れると、そう言うのですか?」
この国の者であれば当然の反応。
わかってはいた、当然こういった反応をされると。
なにせ自分たちもした反応なのだから。
しかしどうも勘違いをしていた。
食事は作れるものではないという常識は間違っている。
食事は作れないのではなく作ろうとすら考えたことがない、それがこの国の普通なのだ。
だから正面から否定しよう。
「作れるとも。何故食事に疑問を抱かなかった?初めからそのままの状態であると何故決めつけた?疑い、研究をするのが我ら魔術師であろう。その在り方を間違えるな。全てを疑え。全ては、解明されるためにある未知だ」
偉そうに言うが、儂自身疑うことをしてこなかった。
王の為すことに、ただ賛同し従うだけであった。
自分で考え行動する。
魔術師以前に、儂は人間であることを辞めていた。
「確かに、そこにあるものに疑問を抱いたことなどなかった。我々は、魔術しか見えていなかったのかもしれない」
学園長の言葉に自身の人生を思い返してみれば存外沢山のものに興味の目を向けていなかったように感じて来た。
「すまないが学園長。私はアルバに料理を作ってもらったことがあるし、今も時折料理の練習をしている」
赤毛の老婆メイガスが申し訳なさそうにというよりは呆れに近い表情でそう口にした。
メイガスの発言にノアは目を丸くするが、メイガスが料理をしていたこと以上にアルバが作った料理を食べたことがあるという発言にそれはもう驚愕し膝をついた。
「儂だってアルバの料理を食べたことないというのに…………」
「学園長、その姿は実に威厳がない。早く立って私たちに料理を教えては?」
「…………いつだ」
「え?」
先程の情けない声ではなかった。
「いつアルバの料理を食べたのだ」
威厳のある声に戻りはしたが、問いの内容には一切の威厳が無かった。
「…………卒業式の日ですけど」
未だ膝を付いたままのノアにメイガスは完全に呆れて、若干引いていた。
しかしメイガス自身も初めて受け持った生徒の内の一人であり、問題児故に深く関わっていたアルバには、他の生徒以上の感情を向けていたのもまた事実であると感じており、ノアを反面教師として特別扱いは表に出さないように気を付けようと決めた。
呻き声をあげながら記憶をたどるノア。
五十年以上前でありながら、記憶はすぐに思い出された。
「成程あの日か」
ようやくノアは立ち上がり、完全に威厳のある声を取り戻す。
「あの日は非常に忙しく学園内を監視するだけの余裕がなかった。その時であれば修練場内に勝手に施設を造ろうが、料理をしようが食べようが気付くことは出来ない」
イチノセハク、ハンス、アルバの三人の後始末に追われ一切の余裕はなく、監視の魔術を掛けて以来初めて半日以上の時間監視の無い日がたしかにあった。
その日に限ってアルバはぜひとも参加したかった食事会を開催していた。
狙ったわけではないことなどわかってはいる。
わかってはいるからこそ非常に残念で仕方がない。
「それで、どんな料理を」
「もういいでしょうこの話は。今は夏祭りの話をするべきでは?」
「…………それもそうだな」
正直何を食べたのかは聞いておきたかったが、アルバが帰ってきたときに作ってもらうからいいと自分を慰め、真面目に仕事を開始した。
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