第123話 幻覚

「後誰残ってる?」


「ようやくやる気が出てきたか?」


「どうせ終わんなきゃ休めないんだからさっさと終わらせたいと思うのは当然だろ」


「そう。じゃあ気を付けておけ」


意味を理解するよりも早く後頭部に衝撃を受ける。

しかし周囲には誰もいない。


「この状態じゃ、どっちの修練かわかったもんじゃないな」


不可視の相手からの攻撃に翻弄されるフロンテにクロイはそう溢したが、その言葉にフロンテの表情が変わった。


「うるせーな。確かに見えちゃいねーがどうせここだろ」


そう言って振った腕に確かな感触。

舞った砂に飛びつくように追撃を行う。

放った音で倒せた気配はなく、放った空気もぶつかったようには感じない。


「めんどくさ」


周囲の空気をまとめて飛ばすも効果はない。

ならば上と空気を飛ばすも効果はない。

そして再び後頭部に衝撃を受ける。

見ることもせずに蹴り上げるが空を切った。


「ったく、ならこういうのはどうだ?」


地面から土を掴み取ると、宙に放り周囲に飛ばす。

避ける隙間の無い散弾だが、先程の空気は避けられた。

今度もだめかと思いながらの攻撃であったが、フロンテは背後を振り返る。

微かに音が聞こえた気がした。

小さな砂が何かにぶつかり、刺さる音。

そして地面に落ちる水音。


「眼は誤魔化せても耳は誤魔化せない。血は見えないが、流してるな?」


ガイストの霧の幻覚は虚像を映し出す。

そこにあるものを見せず、そこにないものを見せる。

落ちる血も、流れる血も、ガイスト自身も。

だがしかし、霧で音は防げない。


「大きく動くのは、俺が大きな音を立てる攻撃の際に限定する。だとしても、飛ばした空気を避けた動きだけはよくわかんねぇ。動きを読んだか?それとも、単純に大きな音を立てずに見て避けたと?」


音を隠せないことに気付いたフロンテは音に敏感に反応する。

音を殺して動く練習をしていたとしても、視覚ではなく聴覚に集中されれば気付かれる。

そして何よりも、音を隠せないということがブラフであることまで想定しいるフロンテを前に、うかつに行動ができなくなった。

たとえ焦ったとしても、呼吸だけは落ち着かせ、静かに、小さく、気付かれないように。

先に動いたのはガイスト。

不可視を利用し魔術を放つ。

しかし魔力の高まりに反応してフロンテは振り返りながら手を叩く。

間に合わないことを悟ると片手で指を鳴らし高まる魔力に音を飛ばす。


「一枚絵」


聞こえた声と共にフロンテの身体が止まるが、すぐに音がガイストに当たり魔術が解ける。

機を逃すまいと崩れる霧の虚像の中で見つけたガイストを押し倒すと、胸を足で踏みつけ位置を固定し頭に拍手の音をぶつけ気絶させた。


「完成度の高い幻覚ってのは厄介この上ないな」

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