第124話 世界の理
「なぁ、異能ってなんなんだ?」
ギフトはまだ戦えるほど形になっていなく、アストロはクロイが担当する。
ようやく休憩できる時間を手に入れたフロンテはクロイに聞く。
「…………魂に根付いた力。限界を超えてそれでも届かなかったときに発現するモノが後天的な異能。前世で異能を手にしていて、生まれた時から魂にくっついてるのが先天的な異能だ」
話すか少し迷ったが、この国の王が異能力者であることも考慮して話すことに決めた。
「魂に根付く力だから基本は異能は一人につき一つ。代わりに魔術よりも扱いが楽だ」
「基本的にということは」
「ああ、複数持ちもいる。俺とかは先天的な眼の異能が自分自身すら滅ぼすものだったからそれを抑えるために母親のお腹の中で後天的な重力操作の異能を発現させてる」
眼帯の下、光を映さない瞳。
「まぁ、この眼を異能と言っていいかはわからないがな」
魔術よりは異能に近いが、あまりに異質な力。
異能であるかはわからないが、それでも特殊な力を複数持っていることに変わりはないからと自信を引き合いに出した。
「
「それだけあれば確かに規格外ですね」
魔力回復中のイフがそう口にするが、クロイは笑って答えた。
「こないだ言った強さ順の話のことなら、異能無しでも変わらないぞ。だってそもそもあの二人は、基本異能を使わない」
身体能力と技の冴えだけで、圧倒的な力を見せつける。
誰もクロイの全力を知らないが、全力のクロイが何も出来ずに殺される相手。
どれほどのものなのか見当もつかない。
「ま、そんな出鱈目は置いておいて言っておくが、魔術師に異能は使えないからお前らが気にする必要はないぞ」
「敵が使うかもしれない力の詳細を知りたいと思うのはおかしいことでしょうか?」
「いいやおかしくない。念には念をってのはよくわかる。俺も昔失敗したことがあるからな」
捕まることで敵の内部に侵入し内側から壊そうとしたとき、全てを読まれ力だけではどうしようもないことを初めて知った。
「で、何が知りたい?」
「そうですね…………」
「時間とかって止められるんですか?」
話に割って入ってきたのは気絶していたアルト。
「魔術で転移は出来た。不死身紛いのもいる。ならば一つに特化した異能であるのなら、魔術以上の出力を出しやすい異能であるのなら、時間も」
「ああ、止められる」
言葉を遮りクロイは答える。
静かに落ち着いた声で。
「まずは理の説明でもしようか」
クロイは地面に一本の線を引く。
「これが世界の理だ。この千を超えるものを世界は修正する。例えば、完全に同一のものが二つあったとしたらそれらは世界の理によって消滅する。時間の停止は世界の理によって再び動き出すから永遠には止められない。あとは…………」
異世界の魂は元の世界へ強制的に返されるが、異世界で肉体と結びつけば返そうにも返せなくなる。
そう言おうとしてやめた。
他の世界の知識はまだ早すぎると感じたから。
「何でもない。んでもってこの世界から修正を受けるような異能への対策は同じ力を使うか自分もまた世界の理を超える事だけだ」
「クロイさんは、世界の理を超えてるんですか?」
「ああ、超えてる。だから時間を停止しようともほんの一瞬、時間が止まっているのだからこの言い方はおかしいかもしれないが、ゼロコンマ一秒にも満たない時間停止した後に止まった時間の中を動き回れるようになる」
「…………いつ、理を超えたんですか?」
当然の質問。
超える術を知りたいが、きっとそれは人それぞれだから。
「そうだなぁ…………俺は、俺一人の力でこの眼の力を抑えられるようになった日だな」
暴走すれば世界を滅ぼしかねない力。
その力を始めて完全に制御できるようなった日。
制御できるようになったから理を超えたのか、答割を超えたから制御できるようになったのかはわからないが、あの日を境に、クロイが見る景色は大きく変わった。
「なろうと思ってなれるもんじゃない。お前らの言う魔法使いと同レベル、おとぎ話の空想みたいなもんだ」
魔法使い。
その実在をこの国の誰もが知っている。
賢者アルバがその域に達したことを、誰もが知っている。
魔術の国でただ一人魔法使いの域にまで至った魔術師だから、アルバは賢者と、英雄と、そう呼ばれるのだ。
魔法使いは、この国の者にとって五十年ほど前にこの学園を卒業した会いに行ける天才であり、とても近い距離に感じられた。
「…………これは答え方間違えたな。まぁいいや、どうせ超えようとして超えられるものでもないし。相手は全員理を超えてるが、誰一人として全力で戦うこともないだろうしな」
一番早かったのはリンだった。
クロイの舐めた言葉を聞きすぐさま地を蹴り殴り掛かった。
一テンポ遅れてアルトが転移する。
イフとギフトが召喚し、ルクスは放つ。
ガイストが全てを包み隠し、わかりきった結末を前にアストロは眼を閉じた。
「これが、力の差だ」
クロイは一瞥もくれず、霧も何もかも関係なく、無差別に空間ごと圧し潰した。
彼らが全力を出さない理由はただ一つ。
全力を出すまでもなく、それこそ軽く腕を振るような攻撃とすら呼べないものであったとしても、他の者は触れるだけで即死する程に力に差があるのだから。
「親か祖父母かが魔法使いのアルバにあったことはあるかもしれないぜ。だからといって、魔法使いが簡単になれるものだと思うな」
跡形もなく圧し潰されその言葉など聞こえているはずもない。
それでも言わずにはいられなかった。
あの天才が、軽んじられるこの現状が許せなかったから。
「王が変わって三千年。変わる前からもこの国はあった。他の国だって同じように長い長い歴史がある。それでも魔法使いはたった一人、アルバだけしか現れなかった。五十年前に実在した人物?違う。五十年前まで実在しなかった人物だ。あんま、舐めんなよ」
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