第115話 体術
「強化魔術無しのお前の速度に合わせるから、戦いの中で動きを吸収しろ。ギフトは俺とリンの戦いを見てなんとなくでもいいから動きを覚えろ。その後再確認して組み手だ」
リンは既に戦いながら相手の動きを吸収できるだけの磨いたセンスと積み上げた基本がある。
だがギフトにはそのどちらもない。
あるのは強化魔術込みのリンを捉える眼と魔術だけ。
自分が強者であったからこそ磨かれていなかっただけで、戦闘センス自体はかなりのもの。
見ているだけでも大きく成長する。
「いくぞリン。加減はするが、寸止めはしない」
ゆくっりと歩み寄り、自然に大きく一歩踏み込むと拳を放った。
防ぎながらも後退るリンにクロイは追撃をする。
鈍い打撃音をさせる拳での連撃は、リンの予想以上に重いものであった。
手加減はされている、しかしそれは何に合わせた手加減であるのか。
リンに合わせたもののはず。
しかし紛れもなく、リンでは防ぎきれない威力であった。
反応できる速度、対応できる速度、だがその威力だけは、リンの防御を超えていく。
重い攻撃をどうにか払い除け放った反撃は、いなされ、そのまま投げ飛ばされた。
不格好ながらも着地からすぐに体勢を立て直すリン、顔を上げると同時にクロイの回し蹴りが迫る。
背後に回避できる体勢ではなく、防げるような威力じゃない。
膝を曲げ背中から倒れるように避けるリンの真上で、蹴りが止まった。
その先を一瞬で理解する。
まだ防御しながら蹴り飛ばされたほうがマシだった。
クロイの踵落としを両腕で防ぎながらも、その身体は地面にめり込む。
「まぁざっと見せたが、どうだった?」
「ちぐはぐで出鱈目」
地面に埋まるリンは目を瞑り反芻しながら答えた。
「特に最後の回し蹴りからの踵落とし。避けるまで回し切るはずだったにもかかわらず突然真上で止まった。勢いが百から零へと変わる。繋がるはずのない動きを無理やりに繋げた異常なものだった」
「そう。一ノ瀬にこの技からこの技につなげるといった決まりごとはない。踵落としのような脚を上げたりという事前の動きがある技以外の全ての技が全ての技に繋がる」
どれだけ自然な一連の流れに見えても、それら全てがその場その場でのアドリブ。
「武器があろうがなかろうが、相手の流派が何だろうと、無数の技を相手に合わせて繰り出すことで、如何な相手にも対応する。それが一ノ瀬の武術だ」
一ノ瀬の武術の対策はない。
対応されるよりも早く仕留めるにしても、いなし受け流す一ノ瀬の堅牢な守りを前に仕留めることは実に難しい。
故に一ノ瀬は最強とされた。
「さて、これから技を身体に覚えさせるわけだが、ノア学園長に用意してもらった専用の魔術を使う。次々と出てくる木の板を破壊するものだ」
見本を見せるために魔術が行使された。
目の前に出現した岩を砕き、砕かれた岩の右側に出現した岩を砕く。
そして正面に再び岩が出現したのでそれを砕くと、次は砕かれた岩の左側に出現した岩を砕く。
再び正面に岩が出現するのでそれを砕き、砕かれた岩の奥に出現した岩を一歩踏み込み砕いた。
「正面に現れた木の板を右手で破壊し、その後ランダムで現れる木の板を同じように右手で破壊する。取り敢えずこれを百回だ。今はまだ木の板だが、砕けると判断したら岩に変えるからな。そら、離れたとこに立って始めろ」
その日から二人は一ノ瀬流の修練が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます