第116話 二人の先輩

修練場に近付く二つの影。

門を開き中へと足を踏み入れ、一瞬にして壁に打ち付けられ気絶した。


「ノア、これなに?」


片方は制服を着ているのでこの学園の生徒なのだろう。

しかしもう一人はまるで知らない。


「…………兄さん、何しに来たの?」


呆れるようなアルトの声。

今まで感じていた恐れはない。

最強最悪の戦闘狂はもう超えた。

今はもっと恐ろしくどうやっても届かない圧倒的な強者を相手にしている。

結局のところあの圧倒的な強者であった兄でさえも、学生の規格の内。

学園長はもっと強かった。

クロイは、ハンスは、もっとずっと強かった。


「急にお前が強くなるもんだからなぁ~。面白いのと戦えると思って来ちゃった」


男は跳ね起き、流れるように躊躇なく魔術を放った。


「どかーん」


起きた爆発は圧縮され、男はクロイに蹴り倒される。

圧縮された爆発を男の胸に当て、踏みつぶし爆発を体内で解放させる。

吹き飛ぶ身体だが、すぐさま再生が始まった。


「…………お前これ、何処で手にした?」


魔術とは思えなかった。

だからといって異能というわけでもない。

本能にも近い直感が、歪な力を伝えてくる。


「隣国。面白そうだから行ったのに、何も面白くないどころかつまらなかった。挙句にはこんな馬鹿げた力くれやがって。なぁ、知ってるか?死ななくなると、世界ってのは途端につまらなくなるんだぜ」


かつての戦闘狂は今、死ねないことによって戦うことが楽しめなくなっていた。


「…………下らねぇ。お前みたいな不死身もどき殺すのなんざ簡単なんだよ。殺してほしいのなら殺してやるし治してほしいなら治してやる。ただそれは今じゃねぇ」


男を立たせるとそのまま頭を蹴り飛ばした。

飛んで行った頭は転がり、再生と共に消えていく。


「よし、お前は今日からサンドバッグだ。必死に抵抗してくれよ」


成長していく生徒たちにどの程度の手加減で相手するべきかわからなくなってきていたクロイは良い相手を見つけて楽が出来ると考えた。


「あぁ後なんか情報があるなら喋っとけ」


「民は管理された幸福を手にして、上はよくわからん実験に勤しんでる。あとは使用用途不明の魔力を溜め込んでた。戦争を起こす気なのは間違いないがいつかは知らん」


「そうか。じゃあ次に、そこで伸びてるのは誰だ?」


未だ気絶したままの大男。

強そうなのは見た目だけというようなその姿に、正直期待などしていなかった。


「地形の塗り替えみたいな魔術ばっかでつまんない奴だが魔力支配のレベルは高い。どうせアルトは自分以外の転移を練習中だろ?こいつの体内に転移させられれば大抵の奴の体内には転移させられると思って連れてきた」


「兄さんそれは私のため?」


「ああ、お前に強くなって欲しいと思ったからだ」


その表情を見てアルトはため息を吐いた。

表情だけでわかる、兄は何も変わっていなかった。

自分を殺せる相手を探している。

けどその根底にあるのは強い相手と戦いたいという昔と変わらない欲であった。

今はもう、かつて負けリベンジを果たしたそこで気絶しているガトリーに対して興味はない。

もはやガトリーは頭打ち。

もうこれ以上の成長は期待していないから。

だが、アルトは違う。

まだまだ成長できる。

既に超えられているが、さらに上へ上へと上っていくというのならそれはとても嬉しいことであった。

男は戦闘狂で、だが強い奴と戦いたいだけというわけではない。

強い奴がさらに強くなっていくのがたまらなく好きなのであった。

最強が、さらにその先を目指す。

それこそ彼が見たかったものであった。


「大好きだぜアルト。俺を楽しませてくれるお前が。頼むから、俺の想像を超えてくれよ?」


手を広げ笑う兄に、すぐさまそれが殺してみろと言外に言っていることを理解し転移すると一瞬にして灰にした。


「あぁ、よく効くぜ。だけどなぁ、もっとだもっと」


男の再生は、出鱈目であった。

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