第110話 ルクスの成長

「次は誰だ?それともまだ発想がないか?」


「…………次は俺がやります」


ルクスが前へ出た。

表情には少しの恐れが見える。

その眼には、見せるだけではすまない闘志があった。


「そうか、掛かって来い」


ルクスの身体を電気が奔る。

ゆっくりと、小さく、静かな電気が奔る。

右手の五指から地面へと、細い電気の道が出来、その内をサラサラと細かな砂鉄の粒が昇っていく。

ゆっくりと、ゆっくりと、昇っていく。

形作られるのは小さなナイフ。

完成したナイフを右手に握り、躊躇いながらも勢いよく左手に刺した。

他の誰かにやられる時とはまた違った痛みに呻き声をあげながら、ナイフを抜き左手を握る。

地面に流れ落ちる自身の血を見つめながら、呼吸を整え、身体に電気巡らせた。

激しく弾けるような電撃が左腕を駆け巡り、流れ落ちる血液を空中で停止させ、地面の血だまりを波打たせる。


「これが、俺の、新たな力だ‼」


勢いよく左腕を振り上げる。

血だまりが形を変え斬撃のように放たれた。

クロイは横に飛び退き斬撃を回避する。

地面を転がり体勢を立て直すと、横から迫る血液を倒れるように避けるとそのまま地面に手を付き飛び起きた。


「血液を操るとは…………」


球体となった血液はその姿を変えながら攻撃をする。

薙ぎ払うような斬撃に細かく連続した突き。

それをさも当然のように、簡単に、軽々と、最低限の動きで避けていく。


「血液は身体の一部。魔力が他の何よりも伝わりやすい」


流石に受けられないなと小言を呟きながら話を続ける。


「水も凄まじい力を発揮できるが、魔術でとなると血液の方がずっと容易に同じことが出来る。異能力者としての立場から言わせてもらえば、自分の血液の操作なんて手を握って開くように簡単にできるようになる」


クロイは襲い来る血液から一気に距離を取り、速度を上げた血液を避け停止までほんの少し時間が掛かっている間に、親指に傷を付け血を一滴たらすと空中で止める。


「ほら、やってみろ」


そして自身の血液を超高速で放った。

目にも止まらない。

何をしたのかもわからない。

左肩に何かが当たった。

左肩が痛い。

それに気づいた時、ルクスの左肩から大量の血液が背後へ弾け飛んだ。

青白い光が瞬き、電撃が奔る。

弾け飛んだ血液は空中で止まった。


「まるで羽みたいだ。血の片翼。厨二心をくすぐられるな、もう何十年も前に過ぎ去ったが」


クロイの傍の血液がルクスの元へと戻って行く。

左腕の失った部分を補う様にすると、左腕が動くことを確認する。


「お前ら魔術師だろ。なんでそう…………近距離で戦いたがる?」


この先何が起こるのかがわかってしまったクロイは、呆れるように首を振った。

電撃を纏いルクスは殴りかかる。

数度拳を避け、反撃に出ようと一度受け止めるべく手を出すが、すぐさま引っ込め背後に避けた。


「触れたら傷付く血液の鎧ね。厄介だな」


そこからの攻撃はより苛烈なものに変わっていく。

腕の血液を移動させ攻撃する際に武器に変える。

刺突、斬撃、打撃。

そして反撃されないよう背後の血液で攻撃し隙を埋める。

その全てを触れることも出来ず避け続けるクロイは下唇を舐め動きを変えた。

目の前から消えたかと思えば突然顎を蹴り上げられ、視線を戻すと足を払われ倒れていく。

視界に映ったクロイに攻撃を仕掛けるも、身体に触れ攻撃を逸らされ、血液を移動させるよりも早くに弾かれる。

流れるような動きで、身体を回転させると正確に顎に拳をぶつけた。

視界が明滅し、意識が落ちかけるところで踏みとどまったルクスだが、その隙をクロイは見逃さない。


「よく耐えた」


そう呟いてルクスの胸を蹴り飛ばした。

壁まで蹴り飛ばされ床に転がるルクスに、もう戦うだけの力は残っていなかった。


「顎殴った時点で割と限界ギリギリだったが、お前が倒れてるそれは貧血だ」


血液を身体に纏わせたルクスは、戦いに使う血液と生きるのに必要な血液の境界線が曖昧になり血液を使い過ぎた。


「肉体強化と血液操作、並列の作業は経験によるものか?なかなかできてた。ただ、どちらもまだまだ半端だ。肉体強化はリンに教えてもらえ。血液操作はノアに、武器の使い方はギフトと共に俺が教える。わかったな?」


「はい先生」


「よし、わかったらしばらくそこで横になってろ」

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