第109話 ギフトの成長

「正直あの戦いで大きく成長できたとは思えません」


立ち上がるギフトはグリモワールを開く。


「何せ私の相手はどうにも手加減が苦手なようでしたから」


「確かにあの人は手加減が苦手だな。だが、学べたことがあったから今立っているのだろう?」


「ええ、当然です」


開いたグリモワールを壁際へと移動させる。

ふわふわと浮かぶグリモワール、その中から一振りの刀が飛び出し、ギフトの手に握られた。


「私が一番この中で弱い。グリモワールに頼りきりで、そのグリモワールすら使いこなせていないのだから」


いつも同じ剣を出していたギフト。

しかし今回は刀といういつもとは違う武器を取り出した。

イフを見つめ、手に持つ刀を指でなぞる。


「仮にもグリモワールに選ばれておきながら、私はグリモワールの力を引き出せていなかった。だから取り返したかったのだろう?君の家に代々受け継がれてい来たこの魔導書を」


「グリモワールは意思を持つ本。力を引き出せない者の下にいるのはとても可哀想だとそう思ったので」


イフが見つめるのは刀。

その出来栄えを見定める。


「それなら安心してくれ」


次々と武具が本から飛び出しギフトの周囲で停止する。

刀を握り直し構えをとった。


「これから私は君の想像を超え、君に歴代最強のグリモワール使いと言われるような男になるのだからね」


数多の武具を引き連れギフトはクロイに斬り込んだ。

拙い剣技ではあるが、他の者の動きをよく見て、自分なりに吸収していっているのがよくわかる。

そして何より、ほぼ初めて近距離で武器を持って戦うというのに、武器をとっかえひっかえして間合いを変え、自身の身体に隠して身体の動きに合わせて突然現れたように射出して来る。

様々なことを同時に行おうとして、拙い剣技がより一層ぎこちないものになっている。

クロイは一つ一つ見極めるように丁寧に避け、一呼吸入れると一歩踏み込み引いたギフトの手を掴み投げ飛ばしながらに刀を奪った。


「よく見ておけよ」


クロイは居合の構えをとる。

無数の武具は止まることなくクロイに迫り、その全てが一瞬にして斬り伏せられた。

刀を左手に持ち替え、脱力した右腕を見て笑う。


「あの人の剣速は今くらいだ。ただ、俺の右腕がイカレちまった」


肘が曲がらない。

肩が上がらない。

そんな腕を見つめ少し触れると、右手に刀を持ち替え何事もなかったかのように振り始めた。


「もう一回さっきの頼むぞ」


さっきのと言われギフトは本から無数の武具を射出した。

クロイを取り囲み一斉に迫ってくる武具を、握り直した刀で一つ残らず弾いた。

先程とは違う、抜刀術でもなければ、目に見えない神速の剣技でもない。


「あの人の剣術は俺やアルバでも真似できないあの人だけのものだ」


消えゆく刀を見送り、投げ飛ばされたまま地面にへたり込んでいたギフトに手を差し伸べ立たせる。


「一ノ瀬家の家訓を教えよう。『敵の武具を敵以上に使える者になれ』一ノ瀬家ではあらゆる武具の使い方を叩きこまれる。俺は一ノ瀬家の人間じゃないが動きは沢山見た。代々の御頭首様以外には負けない位にはものにした」


皆の元まで連れて行き座らせる。

あの状態ではまだ修練をするにも時間が掛かると判断し、他の者を先に見ることにした。


「お前がやりたいことは今のでよくわかったがまだまだ近接戦がなってない。俺が使えるものだけだが、出せる武器の使い方を叩きこんでやる。まぁ最終的にはリン相手に組み手をしてもらうから覚悟しておけよ」

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