第102話 ガイストvsジェームズ
「本当に敵なんですね、師匠」
「誠実な人間でありたいけれど、もう戻れない程に、僕は嘘を吐きなれている」
男は笑う。
その表情すら嘘のように。
「どこからどこまでが
戦闘開始と同時、二人は霧を発生させる。
一瞬にして闘技場内は霧で覆い尽くされ、二人の様子は一切見えなくなる。
そして霧が晴れた時、勝負は既に決まっている。
「ガイスト、僕と君の実力差は明確に示すことはできない。何せ幻覚の性質が違うから。けれど一つ言えるのは、君の幻覚は僕には通用しないけれど、僕の幻覚は君に通用するということだ…………ほら」
足音はしなかった。
声は遠くから聞こえていた。
それら全てが嘘だった。
脇腹を刺されたと気付いた時には、既に刺したそれは引き抜かれ、刺した者は霧の中に消えていた。
「……一枚絵」
何処にいるかはわからない。
けれど、範囲内に入れさえすれば動きを止められる。
出来る限り範囲を広げるために壁際まで下がって放った魔術だったが、太腿にナイフを刺され失敗を理解させられた。
効果を上げるためと言い訳をしてきただけ。
本当なら出来るはずだ。
「心此処に在らず‼」
手カメラは使わない。
魔力の届く限り、全てが範囲内。
不可避の攻撃。
しかし、彼らにとって心に作用するガイストの魔術は、避ける必要のない攻撃であった。
「クロイに言われたことがあるんじゃない?通用しないって」
言われたことはあるけど、全部意味無いとは思ってなかったな。
なにせ同じ心に作用する魔術でも、威力は段違いなんだから。
一定の位置にいるのはまずいと思い、次の手を考えながら駆けるがいつの間にか肩に刺し傷が増え、痛みに足がもつれる。
体勢を崩したが倒れる事無くその場で立ち止まると、肩を押さえ目を瞑った。
痛みに意識を割くな。
大丈夫、血を流したことで精度は上がってる。
集中して、全てを支配しろ。
肩を押さえていた血だらけの右手を正面に向ける。
一呼吸入れ、目を見開いた。
「真理掌握」
血だらけの手を握る。
その瞬間、闘技場の中心から霧が晴れていった。
「もう、いいよな」
晴れていく霧の中から声が聞こえた。
「だって僕、今まで我慢してきたから」
霧が、意思を持つように動いた。
「もう、我慢しなくていいよな」
迫ってくる霧は、徐々に人の姿を取り始める。
「—————喰らえ‼」
焦りながらも放った魔術は、ジェームズの身体を貫通した。
しかしそれはどうもおかしく、霧に穴を空けたようで、再び霧が穴を埋め、人の形を形成し始める。
防ぐ、避ける、迎撃、全てがもう間に合わない。
霧を纏いながら飛ぶように駆けるジェームズはすれ違いざま、手に持つメスで、ガイストの身体を胸から腹にかけて切り開いた。
ジェームズは動きを止め、霧は完全に晴れた。
臓物を零しながら、ガイストは倒れる。
「綺麗な臓物、実に健康だ。僕が言うのだから間違いない」
今まで結果を残してこなかったガイスト。
今年はついにその頭角を現し、ギフトさえも下して見せた。
しかしそのガイストが敗北した。
霧の中で何が起こったかはほとんどわからなかったが、最後の瞬間、ガイストの攻撃を避けることもせず一方的に仕留めたジェームズのその強さだけは理解できた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます