第101話 ルクスvsメアリー
「お前は敵ってことでいいんだな、メアリー?」
「ええ、私は始めから敵でしたよ。そして貴方は、私と初めて出会った時から気付いている、勝ち目がないことに」
「挑戦者でいられるのは良いことだと思わねぇか?」
「諦めの悪い方には手加減しろと言われています。短い時間でしょうけれど、どうぞよろしくお願いいたします」
戦闘開始の合図と同時、メアリーを取り囲むように展開した無数の陣は展開と同時に消え去った。
何を驚くことがあるだろう。
何を焦る必要があるだろう。
予想通り手も足も出ないだけだ。
身体に電気を奔らせる。
肉体から放った雷は闘技場内を埋め尽くし、ルクスは雷の中を自由自在に駆け回る。
「眩しいので、やめていただきます」
速度を溜め、攻撃に転じようとした瞬間、雷は全て搔き消えた。
壁に叩き付けられるルクスには、何が起こったのか理解できない。
「私、友人たちの間では、一番隠すのが上手いんです」
何をかは言う気が無いらしいメアリーの言葉に、耳を傾けるだけの余裕はない。
「…………落雷・
空から雷が落ちる、しかしそれは攻撃ではない。
雷に打たれたはずのルクスは、自身を打った雷を身に纏っていた。
倒れていると見紛うほどに低い前傾姿勢。
闘技場に一筋の雷が奔った。
赤く染まった雷と共に、響き渡るは苦悶の声。
「まだまだ遅いですわね」
地面に突き立てられた紅い剣。
そこから延びる紅い線は、土煙の中に続いていた。
「制御できないからそうなるのよ」
土煙が晴れるとそこには、大量の血を裂けた右脚から流すルクスの姿があった。
メアリーは迫るルクスを軽く避けると、すれ違いざまに右脚を剣で突き刺し、止まることの出来なかったルクスは自身の力で右脚を裂く事となった。
「それは私が負わせた傷ではなく、貴方の不出来によって負った傷。私が付けるものよりずっと痛いでしょう。そしてその痛みに耐えるだけの胆力を貴方がお持ちとは到底思えませんので、棄権してはいかがです?」
それは他の傷とは違う。
出来る限り痛くない場所を出来る限り痛くないように攻撃する。
ある一定を超える攻撃によって感覚を麻痺させる。
彼らはいつだって格下には優しかった。
相手の力を見誤ることもなく、自分を超えない事だけは常に理解し余裕を見せる。
今回も、ルクスが限界を超えども笑みを崩すことなく対応しただろう。
ルクスの声が次第に変わっていく。
それは声と呼べるものではなく、もはや猛獣の咆哮であった。
流れる大量の血が震え、地面に残る一筋の紅い線が震え、メアリーを狙って杭を突き出す。
「よくないですわ。だってそれは、わたくしのですもの」
悲しそうな表情をメアリーは浮かべる。
本来はここまでするつもりはなかった。
もっとて加減をするつもりだった。
けれどルクスの取った戦法は、メアリーが加減を誤るような戦法であった。
突き出された杭は止まり、ドロドロとした血液に戻ると、ルクスを内側から刺し貫く。
ルクスは確かに限界を超えた。
しかしそれはメアリーを苛立たせるような限界の超え方。
「何の思い入れもないけれど、血を操るだなんて真似、私の前でしないで頂戴」
そう口にするメアリーの顔から笑みは消えていた。
勝者はブラッディ・メアリー。
誰ともわからぬ者が最強の電撃使いを降した事実に客席には沈黙が流れる。
最速の男は、その全てを見切られた。
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