第26話 別れ

「悪い、俺アストロと組むことにした。それじゃあ、さよなら」


「バイバイ」


そう言って二人の魔眼持ちは部室から出て行った。


「待てアーテル……」


急いで扉を開け追いかけようとするが、既に二人の姿は無かった。


「よかったの?」


「いいんだ。あそこは俺たちのいるべき場所じゃない。俺たちに彼らみたいな熱い想いは無いんだから」


「それでも、あの人たちは求めてたよ?」


「確かにな。だけどさ、俺を主軸に置いた時点で、この学園じゃ間違ってるんだ」


アストロは不思議そうに首をかしげる。


「おじさんが魔術師じゃないから?」


「魔術師らしくないから、だ」


「……そっか」


アストロは納得してアーテルと手を繋いで歩いて行った。




「さて、その選択だと……イフ達は動かないだろうが生徒会は追ってくる、かな」


アストロの魔術で移動した二人を、トーカは遠くから見つめ呟く。


「まぁ、先の展開を読むのは苦手だからあてにならないがな」


「ならば言うな。場を混乱させるだけじゃ」


「俺の言葉以上に信頼できるのがあるんだから俺がなに言おうと関係ないんだ」


アーテルを圧倒したトーカが、自分以上と認める相手。


「そんなことは知っておる。妾は裏切られたとしても信じ続けるのだから」


「浮気ってこと?」


「死にたいのか」


「冗談だ。俺はもう行くよ、あんま長くいるとまずい」


トーカは不可視の者を残してその場から立ち去った。




「こりゃ厄介だな」


「なにが?」


「生徒会がだ」


校内を走り回るルクスとリンを時計台から見下ろす。


「ルクスとイージスとリンが俺を追ってる。まぁ、一週間も授業に参加していないんだから当然だ」


アーテルとアストロの二人はあの日部室で宣言してから一度も授業に参加しなくなった。


「この学園は法に主義ではない。だが、強者に甘い。そう、俺達に甘い。その上俺たちは特殊で、魔術を習っても意味がない。だから俺たちが授業に出ていなくても問題ないわけだ」


「問題はあると思うよ」


アストロの言葉に目を逸らす。


「まぁそれは置いといて、ギフトとガイストがこの間の一件で俺への警戒度を上げた。そして、ブラッディ・メアリーは言わずもがな、最初から敵だ」


イフ達は味方ではなく。

イフ達の為に集めたルクス、イージス、リンの三人との関係も崩れる。

ギフトとガイストとは先日ガイストと完全に敵対したため完全に敵に回った。

そしてブラッディ・メアリーは考えるまでもない。


「つまり?」


「この学園内に安全地帯がまったくない。一応この時計台がアストロが好き勝手してたから安全地帯にはなっているが狭いし目立つ。なので唯一俺達に関わってきていない学園二位のアルトに会いに行こうってわけだ」


「なんだ、来てくれるつもりだったのか」


突然背後から声がした。


「……気配も魔力も感じなかった。リン先輩をもっと魔術に寄せたものだと思ってたが、こりゃ予想外だ。出鱈目に強いのな」


「ここまで褒められたのは初めてだ。素直にうれしいよ」


男の表情に気が抜ける。

だがアーテルは警戒を解かなかった。

この感覚を知っていたから。

今までであった中で最も厄介な、どんな状況であろうと平穏な日常の中へ引き戻す力。

普通は手に入らない暗殺者としての天賦の才。


「それで、俺たち探して何の用で?」


「あ、学園長が君達用の授業、まぁ実技での授業を用意した。それを伝えに来ただけだよ。場所は普段俺が使っている方の修練場だから間違えないように。明日からだからね、忘れないように。俺も待ってるから」


アルトはそう言うと時計台から飛び降りる。

そしてまるで地面をすり抜けるように消えて行った。

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