神殺しの父と勇者の母を持つ賢者が日常を求めて転生するそうです
赤柴 一
第1話 異世界転生
「おい、アインス‼」
突然部屋の中に現れる男に、アインスはため息を吐いた。
「またか。今度はなんだ、アルバ?」
モニターから視線を外しアルバに問う。
ここ最近、アインスの部屋へと転移してきては本を借りて帰るということを続けていた。
「この間借りた、えっと、なんていう本だっけ?」
…………へぇー、それはまた随分と面白そうなことをするな。
「異世界転生でもする気か?」
「そう‼俺は転生して日常を手に入れる」
快活に笑うアルバを見て、アインスは全てを理解したうえで問う。
「何故あれらの本を見て転生したら日常が手に入ると思った?あんなもん非日常の塊だろう」
「彼らは馬鹿だった。日常が欲しくて転生するのなら、まずは間違いが起こらないように自分の力を封印するべきだった。そしてその上で、中の下辺りの性能をした肉体を作るべきだった」
普通は人体錬成の領域には辿り着かないんだよ。
まぁ、イリスに弟子入りしてたんだから常識がおかしくなってても不思議じゃないがな。
「もしものことがあった時に死ぬんじゃないか?」
「問題ない。もしものことがあった時にそれを解決できるようなものがいる世界に転生する」
「そうか、だがそれだと、異世界転生ではないんじゃないか?」
「たしかに、俺が生まれ育った世界だ。だが、この世界からすれば異世界だ。俺がいた世界に、科学文明は無かった」
「そうだな」
「それじゃあ、転生するよ」
ん?ここでするのか……ここでするのか⁉
いやまぁそんな気はしていたが……本当に常識がなくなったな。
アルバの周りで輝く陣を眺め、つまらなそうに見送る。
「はぁ、じゃあアルバ。無双もなければ、戦いもない。脅威を前にしても、戦う術を持たない一般人としての生を、見ていてつまらない日常を、是非楽しんできてくれ」
アルバはその場から消えた。
「まぁ、絶対邪魔するけど」
アインスはアルバがいなくなると、意地の悪い笑顔で言った。
「カラミティ、巫、久しぶりに全力で遊べるぞぉー」
「なぁ、さすがにひどくないか?」
「安心しろ、何年もかけて計画立てるから。どうせ向こうも成長に何年もかかるんだ。こっちも時間かけ放題だ」
「そうじゃないんだが……」
「アインス、それは楽しいの?」
カラミティの言葉に、アインスは笑顔で答える。
「当たり前だ。長い時間をかけたドッキリ、楽しくないわけがない」
「そう、ならやるよ。手伝う」
「そうか。それじゃあ巫、二人で人を集めてくれ。手伝ってくれそうな、これから先十年以上は暇してそうな奴を頼む。あぁホームズは呼ばなきゃだめだぞ。必需品だ」
「「わかった」」
巫きくのと巫術廉は二人で部屋を出た。
後は非も来てくれそうだな、武術で簡単に釣れるし、いい相手がいなくて困ってるはずだから。
後は……。
「アインス、また悪だくみ?」
ベッドで横になっていた少女は起き上がりアインスに微笑む。
「またとはひどいなツヴァイ。今回が初めてだ。まぁ、少しやり過ぎるつもりだが、やり過ぎくらいがちょうどいい」
「ふーん、そういうものなのね。あぁ、そういえば、アインスが読んでいた本、何が面白いのか理解できなかったのだけれど、どういったところが面白い要素なのか、教えてくれない?」
ツヴァイに問われアインスは固まった。
「悪い、俺にもよくわからない。学生をすることになって、一通り学生がすることはしてみたが、面白いや楽しいといった感情は無かった。まぁ、俺たちに娯楽っていうものがあってないのかもな」
笑うアインスは、少し悲しそうだった。
「だからこそ、こうして悪戯だとかしてみているわけだが、巫やホームズに頭を使わせるのと、非や巫の運動不足解消くらいにしか思えないんだよなぁ」
ツヴァイのいるベッドに寝転がり天井を見つめる。
「他者の心は理解し掌握できても、俺の内に感情が現れるのはまだまだ遠そうだな」
そういうアインスの頬にツヴァイはキスをする。
「でも、愛や恋は手に入れた。他の感情も、ゆっくり手に入れましょう」
ツヴァイは顔を赤くするアインスに抱き着いた。
ふむ、これが転生体。
身体は小さいというのにとても重い。
魔力は最初からないも同然、いやこれが普通なのか。
今まで見えていたものも見えなくなっているし、魔力をほとんど感じない。
これほど違うと、何もない空間を漂っているようだ。
ともかく俺は、転生に成功した。
年齢は幼く、成長を待たなければだが、仕方のないことだ。
異常な経歴は要らない。
生まれてすぐに言葉を発しただとか、普通よりも早い速度で成長しただとか、そんなものは要らない。
しかしこれは、時間がかかるな。
「ごはんの用意が出来たわよー」
女性の声に呼ばれ、少年は家の中へと入っていった。
学園へ入るまであと十年。
はぁ、これは意外と面白くないのでは?
まぁ、それが日常というものなのだろう。
これが日常だと思えば、楽しさすら感じる。
あれから数年。
少年は十二歳の誕生日を迎えた。
少年は森の中を駆け回り、硬い木を、殴り、蹴る。
まだだ、まだ足りない。
中の下を狙うにあたって俺が用意したこの肉体。
属性は地、本来ならば他の術者のサポートが主だが、攻撃系統の魔術を使うこともできる。
地属性における攻撃魔術、その最たるものは地形操作。
だが、この体は魔力操作が苦手なため離れた位置にいる者を攻撃することが出来ない。
子の身体で使える攻撃魔術は罠のみだ。
それも、触れなければ設置することもできない罠。
だから、この体をもっと動くようにしなければ、戦うことなどできない。
少年は速度を落とし歩きへと変える。
息を切らしながら木の無い場所へ出ると、芝生に座った。
「来年には入学のための試験がある。この程度で、入学できるのだろうか」
呟くと、立ち上がり息を整える。
見えない敵を想定して戦闘を始める。
今までの戦いの感覚が残ってる。
だからこそ、自分の弱さがよくわかる。
―――仮想敵———□□年前に存在した勇者———。
目を瞑り、敵を見た。
繰り出される連撃は届かない。
開いた力の差に、唇を噛む。
そして、速度をワンテンポ上げた。
未だ届かない攻撃だが、突如少年の振るう手が爆発する。
その攻撃は不意を突けたのだろう、少年の動きは攻めへと転じた。
手のひらを相手へと押し付けるような連撃、隙を突いた爆発、相手へとその流れを奪わせない豊富な防ぎ手。
あぁだが、力の差は埋まったわけではなかった。
少年の延ばした左腕が、ピクリと震える。
少年は一歩後ろに下がりながら、今までよりも大きな爆発を起こした。
突然の激痛に、現実へと引き戻され痛みに顔を歪める。
血だらけの状態で黒煙を上げる左腕を見て笑った。
「あーあ、左腕斬られたと思って爆発させちゃった。流石に痛いな。まぁ、回復系の魔術が得意で助かった。だけどこれ……」
破れ焦げた服を見て苦笑いをした。
「怒られるよなぁ。あーどうしよう。いや、どうしようもないか。素直に謝って来よう」
ため息を吐き、少年は腕を治療しながら来た道を戻っていった。
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