第30話

「ところで、君は具体的にどんなことをやりたいの?」


「どんなことって、何が?」


「遊んだりしたいから、僕にそんなことを言うんじゃないの?」


 リィルは一時停止して考える。即答する必要はないけれど、僕が質問すると彼女は必ずといって良いほどそのポーズをとるから、僕はいつもついつい可笑しくて笑ってしまう。僕がおかしいのではない。おかしいのは彼女の方である。


「遊ぶのってさ、不思議な行為だよね」リィルは言った。「生き物なんだから、余計なエネルギーを消費しない方がいいのに、その反対のことをしようとするのは、どうしてなんだろう?」


「さあ……。遊ぶことで、寿命を縮めたいのかもしれないね」


「どういう意味?」


「いや、特に深い意味はない」僕は笑う。「生き物が進化する過程で、人間という種が少々特異な方向に進化したことは確かだよ。だから、その到達点には、自ら寿命を縮める生き物がいても不思議ではないな、と思ったんだ。無意識の内に生き延びたいと思うのが生き物なら、それを意識的に変えられるのが、人間という生き物なんじゃないかな」


「私はウッドクロックだから、それほど遊びたいとは思わない」


「そうなの?」


「と、思い込んでいるだけかな」


「人間をモデルにしているんだから、君の行動も、それなりに人間に似ているはずだよ」僕は話した。「でも、遊ぶとなると、個性が出るわけだから、その個性が何に由来するのか、君にとっては不思議かもしれないね」


「うん……」


 僕はスパゲティーを食べ終える。とても美味しかった。


「でも、こんなふうに話していると、それなりに楽しいだろう?」


 僕がそう尋ねると、リィルは若干腑に落ちないような顔をする。


「うーん、どうだろう……」


「え、楽しくないの?」


「いや」彼女は笑った。「まあまあ」


 僕とリィルが揃って店の外に出ると、すでに真夜中と化した街が目の前に広がっていた。この飲食店はメインストリートから一本入った住宅街にあるから、周囲にはこの付近を住居とする人の家々がいくつも並んでいる。窓に明かりが灯っている家はほとんどない。腕時計で時刻を確認してみると、ちょうど零時三十分を回ったところだった。


 建物の明かりがほとんどないから、空に浮かぶ星々がはっきり見える。


 久し振りに見た星空だった。


「綺麗」リィルが呟く。


 そのとき、僕たちの背後で今出てきた飲食店の照明が落ち、代わりに外壁に巻きつけられた電灯が光りを灯し始めた。


 赤、緑、青の電飾がきらきらと輝いている。


 今日はクリスマスではなかったけれど、そんなちょっとしたサプライズに遭遇することができて、僕はクリスマスプレゼントを貰ったみたいに嬉しくなった。


「何色に見える?」


 手をコートのポケットに入れて、僕は隣に立つリィルに質問する。


「赤と、緑と、青」彼女は答えた。「光の三原色が混ざれば、白になる」


 黒と白。


 そのときの、可視光線を使わないで世界を見ていた彼女が、僕にはとても遠い存在のように思えてならなかった。

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