32話
「ねぇ、どうしたらいいのかな」
あたしは白雪さんの買ってくれたドーナッツをかじりながら、ポツリと漏らす。
ドーナッツなんて子供が食べるみたいなの、普段は食べないけど今は素直に食べている。
隣では白雪さんが、大福を美味しそうに頬張っていた。
「どうしたら、と言いますと?」
「この後」
「そうですね。間森さんは、どうしたいんですか?」
「戻んなきゃ駄目だよ。でも、どんな顔して戻ったらいいか分からないよ。でも、今日は学校の日だから戻らないと……。白雪さんも、戻らないといけないでしょ」
時間はまだ一時間目の終わりくらいだから、今から戻れば最悪でも午後からの授業は受けられる。
戻りにくい理由が何かあるあたしはともかく、白雪さんは戻らないといけないはずだ。
心の中にはある事が引っかかってたけど、それを白雪さんに言う訳にはいかなかった。
「それ、誰が決めたんですか? あたしが、戻らないといけないって」
「な、何言ってるの?学校は行かなきゃいけない場所だよ?あたしたち、高校生だよ?」
いつか一度聞いたような気がした、誰が決めたんですか?って言葉が白雪さんから聞こえた。
でも、そんなのあたしには当たり前としか言いようがなかった。
あたしたちは学生で、毎日学校に行くのが当然で義務のはずなのに。
だけど、白雪さんは表情一つ変えていないで、最後の一口の大福をこくんと飲み込んだ。
「間森さん、それは健康だったらですよね」
あたしに向けらえたその口調はと視線は、勉強会の時と変わらない。
あたしに視線を合わせていってくる感じは『分からないなら教えてあげます。それでも分からないなら、一緒に考えましょう』って時みたい。
「風邪ひいたら、行きませんよね?お腹痛かったら、無理には行きませんよね? 他にも、怪我や病気したら休みますよね」
「そりゃ、そうだけど」
それくらい、あたしだってわかる。
ケガや病気をしたまま行ったら逆に迷惑になっちゃうし、もし白雪さんがそんな状態で来たら無理にでも帰ってもらうようにする。
「じゃあ、今は行かなくてもいい場所ですよ。健康じゃない時は休んでもいいんですよ、学校は」
「え?白雪さん、あたしは熱なんてないしお腹も痛くないよ。だから、今からでも――」
「そうですね、身体は健康です。でも、心はどうですか?」
あたしの言葉を遮ったのは、そんな白雪さんの言葉だった。
心の健康って、どういうこと?
分からない様子でいると、白雪さんはこくりと一つ頷いた。
「友達の方は、本当に悪気はなかったと思います。あたしも聞いたんですが、すごくびっくりしてましたし相当不安そうでした」
大福と一緒に買った一番安かった緑茶を一口含んだあと、白雪さんははっきりとわかるくらい俯いた。
「間森さんの友人さんには、一応あたしに任せてほしいって言って出てきましたけど。あたしもまさかここまでとは思ってなくて……。本当に申し訳ありません、あたしの認識不足でした」
「認識不足?」
「間森さんの心はもうボロボロです。だって、友達の何気ないひと言にこんな反応をしちゃうくらい過敏なんですからね。少し、休んだ方がいいです。過敏ってことは間森さんの本能が、今この刺激を受け入れたりしたらまずいって思ってる事ですからね」
白雪さんは隣から前に位置を変えると、あたしにしか見せてないあの約束を守った笑顔と共にさっと手を差し出した。
そして、こんな信じられない言葉を向けてきた。
「だから、今から一緒に……ちょっと、お出かけしましょう。一緒に学校、サボっちゃいましょう」
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